ウィルスバスターズ S :


「あっ…うぅっ」

ベッドの上で苦しみ、喘ぐ刹那に女を感じた、なんて。
最低だと自分でも思う。
パートナーとしての役目を忘れて、刹那に見入るなんてパートナー失格だった。それでもロックオンの目の前で、身体をくねらせて苦しみに声を漏らす刹那はただの女にしか見えなかった。
苦しげに漏れる吐息も、紅潮した頬も、全てロックオンを刺激した。
…こんなこと、刹那には絶対に言えないけれど。

Written by あきら様






電脳世界のことは現実世界では分からない。
何が起こっているのか、何が襲ってきているのか。
ただ、現実に引き継がる痛みに呻く刹那を見守ることしか出来ない。
今回のミッションは些細なことだったはずだ。
この会社のマザーに入り込もうとしてる輩を叩き潰す。
それだけだ。
ここのマザーコンピューターが抱える電脳世界は決して広いとは言えず、ならば小回りが利く刹那が向かった方が都合がいいだろうと判断してのことだったのに。
「ぁっ…く…っ!」
ベッドの上に横たわる肢体は時折痙攣するかのように跳ね上がる。
咄嗟の判断で、マザーと外界を繋ぐ回線を手動で遮断した。
本当はこれとてダメージを与えるものだからしたくはない。
けれど、これ以上は、無理だ。
「刹那!」

Written by 夢天様





息が整わない。痙攣するように体がビクリと動く。それを抑えるように手が刹那の体に触れた。
体温を伴った人の、手。
回線が切れたのか。
その現況であるだろう手の持ち主を鋭く見上げる。
「どうして切った」
まだ少し声が掠れている。
「もう限界だっただろう」
「まだ行けた」
「今の状態がこれなのにか?」
外部から強制的に遮断したというだけではありえない消耗。
「俺が手を放すだけでおまえは倒れるだろうよ」
「そんなことはっ……」
「ない、なんて言えないよな?」
一瞬手を放されてベッドに体が落ちる。覆いかぶさるように上から奴が笑った。
封じられた言葉に、何も返せる言葉は無かった。

Written by 桜璃






「……退けっ」
「退かせばいいだろ。いつもみたいに」
男は人が悪そうにニヤリと口角を上げて笑う。
「おまえが、平気だっていうなら退かせるだろ」
「五月蝿い、退け、邪魔だ、俺に触れるな!」
「触れてないだろーが」
五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い。
こんな距離――触れているのと一緒だ。



触れたらやばい、それが分かってるからこの距離を保ったというのに。それすら危うくなってきて刹那の足が上がる前に上半身を預けていたベッドから身を起こす。
「悪かったよ」
「……」
「悪ふざけが過ぎました」
「……本当だ」
まだその弱った姿に劣情が残る。
だが今はミッション中だ。思考を切り替えろロックオン・ストラトス。
「で?」

Written by 桜璃






「状況は?」
「たぶん、ユニオンウィルス…フラッグだ」
「フラッグ?!」
もとより問題視されていたユニオンの中でも最近現れたフラッグというウィルス。
何が目的で作られたのかすらまだよく分かっていない。
ただコンピューターに侵入して全てのデータを消し去ってしまうプログラムだ。
OSから何まで全てなくしてしまうということは、当然その上に成り立つ電脳世界は瞬時にデリートされる。
それを理解した瞬間に背中をつめたいものが滑り落ちた。
もし、今咄嗟に回線を切らなかったら、一歩間違っていたら、刹那の精神ごと消されていたかもしれないということだ。
表情からそれを察したのか刹那はそっと息をついて、ただ真っ直ぐに見上げてきた。
そして短く一言告げるのだ。
「大丈夫だから」

Written by 夢天様






大丈夫だと

そう言い切る刹那はまだこんなにも小さな少女なのに。
それでも戦うことをやめずに、前を見ているのだ。
泣いてしまいたかった。
そこまで自分の命を危険に晒すなと。
そこまで危ない状況ならば、俺を頼れと言いたかった。
なんのためのパートナーなのか、わからないじゃないかと。

…守りたいのだと、言ってしまえたら楽になれるのに。
刹那を守りたい、守ることを許される存在でありたいのだ。
パートナーだからとか、そんなことは関係なく。
刹那を守っていいのは俺なのだと、守ってほしいと望まれたいのだ。

Written by あきら様