第2期ED派生部屋
・ブルーガーデン:前編/後編‖ロク刹。明るめほのぼの散髪話。
ブルーガーデン<前編>:
シャワールームから出ると、何時の間に入ってきたのか。長い足を持て余すようにソファに腰掛ける姿があった。
またかと溜息を一つだけ落とすだけで男の存在を無視してソファーとは反対側にある冷蔵庫へと足を向ける。ペットボトルのミネラルウォーターが並ぶポケットから一本取り出して、口を付けた。
冷たい水が熱いシャワーで乾いた喉を通っていく。その心地良さに一気にペットボトルを傾ける。
「髪伸びたなぁ」
ひょいと伸びてきた手が前髪を摘む。自分の肩口から伸びるその手と、逆の肩に回された腕に顔を顰める。
何時の間に背後に来たのか。
気配が無い。癖で気配を消しているのか、それとも部屋の空気に馴染んでいるとでも言うのだろうか。
唐突でありながらそれは至極自然であった。
「これじゃヘルメット被ったら見づらいだろ」
「別に……」
不都合は無いと言おうとして、言葉を切る。
確かに押しつぶされた前髪が目に入って見づらいかもしれない。
「ほらな。んじゃ切ってやるよ」
「自分で出来る」
「結構難しいんだぜ?」
「あんたは出来るのか」
言ってから出来るだろうなと思う。この男はこと生活全般に関して出来ないことはない。万能だとまで思っているわけではないが、器用なのだ。
「俺の腕見せてやるから外出ろ外」
「なんで……」
「その方が気持ち良いだろ?せっかく海に居るんだし」
「別に海なんて珍しくもないだろう」
エクシアを海に隠すこともあるし、このアジトに来てからは毎日見ている。ドッグのある島も当然ながら海に囲まれている。
海を見て育ってきたわけではないから身近とは言わないが、見たことの無いものでも、希少性のあるものでもなかった。
「見てるだけだろ。のんびりするのとはまた違うんだよ」
どう違うんだとか、のんびりではなく髪を切るんじゃないのかとか。
思ったが、問う前にロックオンはもうドアの前へと移動していた。
「いいから行ってろよ、俺は道具借りてくるから」
ドアの桟に置いた手を支点に肩口に振り返りながらそう言い置いて出て行く。
もう一つ溜息。
どうしようとは思わなかった。外に行くために飲み干したペットボトルをダストボックスに投げ入れて刹那もまた部屋を出ようとし。
道具と言っても鋏くらいじゃないのだろうか。机の上のペン立てに突き刺さった鋏を見て首をかしげた。
ばさりと白い布を刹那の剥き出しの肩に被せる。
シャワーの後で暑いのか、Gパンだけしか身につけていなかったが、この季節風邪をひくことも無いだろう。すっぽりと覆った布が直射日光も避ける。
持ち出した椅子に大人しく座った刹那が、太陽の光に少しだけ眩しそうに目を細めた。
「あれ、なにやってるんですか?」
「おーアレルヤ。今から刹那の髪切ってやるところなんだよ」
「ああ、結構伸びてたもんね。良かったね刹那」
立っていてさえ頭一つ低く目を合わせるには屈む必要があるのに、座っている今はずいぶんと身を屈めて覗き込むアレルヤに別にと刹那はそっぽを向く。
勝手にやってるだけだとか言われないだけ大分ましな反応だろう。
まぁ口でなんと言っても大人しく座っているあたり嫌がっているわけではない。
そのくらいの表情は幾ら刹那の感情表現が少ないといっても分かるつもりだ。
「で。アレルヤはなんだ?そんな荷物持って」
ああ、とアウトドア用の簡易テーブルを上に上げてみせる。
「今日は海辺でバーベキューにしようってスメラギさんが」
完全に肉体労働はアレルヤの担当になっているらしい。アレルヤも大変だ。
苦笑して、俺も人のことばかりは言えないなと思う。アレルヤが肉体労働ならこっちは精神労働だ。厄介ごとをみんな投げてくる。
……まぁ押し付けられるだけでもないが。
自分から買って出ているような厄介ごともあるにはある。例えばこのお子様とのコミュニケーションだとか心をいかに開かせるかだとか。
仕方がない。
他の奴がやっていたらやっていたで絶対に気分が悪いのだから。
「んじゃ始めるぞ」