「甘いもんが食べたい」
「はぁ?」
唐突に斜め後ろから聞こえてきた声に思い切り不信な反応を返す。何言い出すんだこいつ。甘いもの、なんて神託の盾本部に売ってるわけも落ちているわけもない。持ち込んでいるなら別だが、滅多に外に出られないこいつにそんな余裕は勿論あるはずも無く、そもそも手元にあったらさっさと一人で食べているだろう。
「昼食はさっき食べたばっかだろ」
「甘いのは別腹だって言ってたぜ?」
「……誰が」
「博士」
即答にそうだと思ったよと思わず歯切りする。あの洟垂れの死神め、いつだってルークに余計なことしか教えない。っていうか必要なこと全然教えてないだろあの馬鹿。
剣術は仕方ないさ、見よう見まねかヴァンが教えなきゃ無理だろうさ。ガイでも良いがアッシュの型とは微妙に違う。流派が違うんだから当たり前だ。まぁそれだってちゃんと任務はこなせるんだからそれはいい。関係ない。っていうかそれだってどうでもいいことだ。
ガイもディストも居ない時に任務だからと呼びに言ったあの日の衝撃はきっと一生忘れないね。
着替えられないだって?僕より5年も早く生まれたくせに、ボタンを二つまでしか留められないとか馬鹿だろ本当。ブーツが履けない?一体どうやって生活してたんだ。
勿論ディストは着せっぱなし。ガイの管轄に移ってからはガイが世話を焼いてたらしい。そりゃ着れる様になる訳が無い。
そんな頭痛がするようなエピソードがそりゃもう沢山あるのだこれには。
「いーい、あんたさいい加減ディストの言うこと鵜呑みにしてると馬鹿になるよ。もう馬鹿だけど」
「博士を悪く言うなよ!だいたい博士だけじゃないぞ!!」
「ふーん、あと誰だよ?」
「ラルゴとアリエッタ」
「……」
あいつらっ……ていうかなんでラルゴ。アリエッタはまだ分かる。一応女だし甘いものにアリエッタまぁ六神将の中じゃ一番まともな組み合わせだろう。でもよりによってなんでラルゴ。普通そこはリグレットとアリエッタだろ。
「女は甘いものは別腹なんだって教えてくれた」
「へーあんた女だって認めるんだ」
「うるせーよ!」
アッシュと同じであることを強要されるこいつには、女であるということは失敗作であるという証でしかない。多少肩が細いような気はするが、それ以外は並びさえしなければアッシュと見せかけられるそこには、シークレットブーツやら肩パットで補強し、アッシュに牛乳を嫌わせるようなトラウマを作ったというリグレットとヴァンの多大な努力があることは一応知っている。
「なーそれよりシンクなんか持ってないのかよ」
「……僕が持ってるわけないだろ。それこそアリエッタにでも聞きなよ」
「アリエッタ捕まんないんだよ」
ちぇっと拗ねたように口を尖らせたこいつは、けれど次の瞬間パッと顔を輝かせた。
普段は足音なんて立てないくせに、わざとらしい軽快な足音。
「ガイ!なんか甘いもん持ってねぇ?」
第一声がそれかよとか突っ込むこともしない、できたと言うより駄目な男はその問いに身を屈めた。
「ん〜そうだな、ルーク」
「んっ……」
何々と警戒心無しに近寄ったこいつはだからそうしてガイの餌食になった。だからディストは余計なことしか教えないっていうんだ。最低限警戒心くらい教えとかなくてどうするんだ、この世界で。
「甘いもん、だろ?」
「全然甘くぬぇーよ」
さすがにそこそこで唇を離し、ニッコリとそりゃもう爽やかに笑ってるガイの顔は傍から見れば胡散臭いものでしかない。
が、それにはそうでもないらしく、不満そうに口を尖らせて文句を言っただけだ。
そりゃそうだ。これの欲しがっている甘さは砂糖の甘さで、ガイがやってのは見てるこっちが砂を吐くだけでしかない。
砂じゃないね、プルプルとふるえる拳がアカシック・トーメントでも放ちそうだ。
「でもガイ、なんか持ってるだろ」
「分かるか?」
「甘い匂いしたぜ」
正解、と飴玉をそいつの口の中にガイが押し込めば、今度は満足そうに笑むもんだから思わずブチリと血管の1、2本が切れる。
「勝手にやってろ……このバカップル!」
どいつもこいつもなんでこいつに甘いんだ。
そもそも人に絡んでおいて、別のがきたら眼中に無いとか性格が絶対間違った。アッシュを目指させるからそうなるのだ。
虫歯になってもしらないし、泣きついてきたって面倒は見てやら無い。
……絶対に。
…………多分。
博士の愛した人形
-飴はいつでもポケットに-
甘いのが読みたい…甘いのが書きたい……と念じてできたSS。
シンクはいつだって被害者です。ディストじゃ被害者になってくれないんだもん(クスン)
この設定だと、ディストは親心、ガイvsシンクかな。アッシュはルークの存在を知りません。知ったらきっと参戦するんだろうなぁ……リグレットはお姉さん?母親??アリエッタは友達。ラルゴはじいちゃん(ぇ