「相変わらず、間抜けな顔で寝てるんだな……ルーク」
闇が、黒い闇を連れて来た。
見覚えのある漆黒の衣装に身を纏った男が、見慣れた顔で、いつもの口調で、雰囲気だけが違って、窓を背負って立っていた。
***
「ガイ……?」
ぼんやりとベッドに横になったまま見上げてくる子供によっと声を挨拶を投げかける。
久しぶりだ。ガイがヴァンについてからもう半月たつ。もっとも一日見なかっただけでも久しぶり、になるけれど。
昔から寝起きのよくない奴ではあるけれど、今も変わっていない。危機感なんてまったくないんだ。当たり前だ。そうやって育ててきたのだ。
大切に、大切に、真綿にくるむように優しく。
本来なら許されないその育ち方も、子供に課せられた預言のお陰で存分にできた。彼こそが本当に箱入り息子だろう。いや――――深窓の令嬢ならぬ令息とでも言った方がいいか。屋敷の中央に隔離されるように建った部屋の中で、ずっと生きてきたのだから。
「あんまぼんやりしてっと寝首をかかれるぜ?」
「……誰に」
「そうだな。俺がここに居る限りはありえない、か」
ニヤリ。
口角を上げて笑ってみせると、ルークは身を震わせた。怯えているのか。何に、なんて問わなくたって分かる。この子供について分からないものなど無い。
彼は人の死が恐いのだ。知っている。優しい優しいルーク。
世界が優しいものでできているのだと信じている、子供。
優しい世界の住人を殺すから恐い。人の命の重みなど、教えてはこなかった。次の日から居なくなってしまう恐怖なんてルークは知りようが無い。
側に居たのは自分だけだ。名前も、メイドの数人とペールとラムダスくらいしかルークは知らない。
そもそも個を識別していないのだから分かりようが無いのだ。
「みんなおまえに触れる奴は殺してやるよ」
「ガイっ」
やめてくれとルークが叫ぶ。
そんなこと望んではいないのだと、如実に語るその瞳に愉悦を込めてガイは笑った。
まだ、おまえは信じているんだ。俺の教えた優しい世界を、俺が居なくなった今も守っている。信じている。
馬鹿らしい。
馬鹿らしくて、愛しくて――――腹が立つ。
「考えてもみろよ。ヴァンはおまえのことを道具としか思っていない。ファブレ公爵も同じだ。なぁルーク。仲間はおまえを愛してくれたか?あんなに愛を迫ったナタリアだって身を翻したのに。単に力が必要だから利用しているだけじゃないか?」
「違っ……」
「違わないよ、ルーク」
優しく、優しく、それがルークの世界であるように、いつもと同じように言葉を紡ぐ。
だって馬鹿らしいだろう。優しい世界の住人はもう居ないのだ。
だって腹が立つ。俺が作った世界なのに、その世界に他人を住まわせるなど。
許せない、許せない。それが許せるのなら、預言だって許せるだろう。
「覚えていろ、ルーク。おまえを愛しているのは俺だけだよ」
答えは無かった。
ただ、ぶるりと夜気にルークが身を震わせた。
愛をささやく