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ちょっと遅くなってしまった。だがパーティーの行動を乱しているわけでもないし許容範囲だ。それならよっぽどジェイドの方が問題になっている。あの男は宿に泊まるとき、夜遅くまで時には朝まで帰ってこない。現にどうやら今もまだ居ないようだ。

(それも気楽でいいんだがな)

ジェイドがどうというわけではなくて(若干なきにしもあらずだが)ルークと二人というのは気が楽だ。一人部屋よりもルークが視界に入るという面では気が楽かもしれない。
考え事があるときには向かないが。

(あれで俺の顔色読むのは得意だからなぁ……)

考え込んでいたり沈んでいるとルークは敏感に察する。それは屋敷に居たときからそうだったが、髪を切ってからはさらに磨きが掛かった
――――そんなところに観察力を付けなくてもいいと思うのだが。

「ルーク?」

部屋に入って一番最初に確認した自分のベッドの上に丸くなった背中を見つけて声を掛ける。
暗くなって大分たっているとはいえ、眠るにはまだ早い時間だ。
疲れていたとしたって早すぎる。だがこの時間にちょっとした仮眠をとるというのもおかしなもので。よっぽど疲れていたか、はたまた寝る気はなくて転がっていたら眠ってしまっただけか。どちらにしろ人の荷物がある場所で普通に寝たりはしないだろう。

「どうしたんだ?」

寝ているのかとも思ったけれど違う、寝息ではない。ただ殺しただけの息遣い。
なのに返事は無く、拗ねている合図だということを察してやれやれと肩を竦める。
一体全体何がルークの気に障ったというのか。

(ルークに言ってかなかったからな……)

まぁ遅くなるとは思っていなかったし、ちょっとした外出をいちいち探して告げるというのもまずしない。子供ではあるまいし。だがそれがルークが拗ねて転がっている理由だろう。それ以外に思い当たらない。

ギシリ。

二人分の重量を支えることになったベッドが軋んだ音を立てる。
立派なものではないけれど、硬い寝台は二人分くらいで壊れるほどやわなつくりもしていない。

「寝たふりするならもっとちゃんと寝息も作っとけ」

寝たふりがばれているのを教えてやれば、案の定ルークはぱちりと目を開けた。
そしてやっぱり拗ねた顔で。

「……おまえ何処行ってたんだよ」
「ちょっとな」

なんとなくあいまいに誤魔化す。
その必要があったのかと言えば無く
――――想像通りだったからもう少しどこまで想像と同じ問答をするのか試してみたかったのかもしれない。

「なんだよ、ちょっとって」
「あー色々見てたら時間経っちまってな。夕飯も外で食べてきたから」

実際は酒場に居座りすぎたというのが本当だ。それほど呑むほうではないが、それなりに酒は飲めるクチだ。ルークを連れては絶対行けないが。未成年だしなによりお坊ちゃんは絡まれるのが目に見えている。
まぁ酒場でも夕食は食べられるから嘘ではない。どこぞの大佐殿は酒場で麻婆カレーだったか何かを定例としているらしいくらいだ。

「……ガイの嘘吐き」
「なんでそうなる」

違和感などないはずだった。
そもそも完全な嘘ではなかったし、嘘吐き呼ばわりは心外だ。
根拠も理由も無く、敏感に感じ取ったのだろうか。とりあえずルークに表情を読まれたなどとは思いたくない。
むっつりとそっぽを向いたまま、本で読んだのだろうかルークは子供らしい発想を披露してみせた。

「嘘吐きは舌抜かれちまうんだぞ」
「どうだろうなぁ……そのわりにジェイドの旦那とかアニスとか無くならないが」
「二枚も三枚も付いてるんだろ」
「それにしたってあの調子じゃ百枚あったって足りないだろ」

あの二人はちょっと話しているだけでいくつもいくつも嘘が出てくることがある。
最もあの程度を嘘というかどうかは人にも寄る。まぁ大なり小なりそれも嘘ではあるが、彼らのものは大半がナタリアやルークをからかうだけだ。
それ以外もあるかもしれないけれど、そういったものはかつての自分にもあったし、ルークにだってある。意地を張っているときだとか、意図的でなくとも存在だとかそういったところに。

「じゃあ抜かれたら生えてくるんだ」
「……おいおいおいおい」

それはちょっと気持ちが悪いぞと言うと、ルークも想像したのか嫌そうに顔を顰めた。そんな顔をするくらいなら言わなければいいものを、どうやら想像まではしなかったらしい。
ガイ、と呼ばれて拗ねた顔を一旦引っ込めて、今度は伺うような声音で。

「……本当はどこに行ってたんだ?」

きっと答えてやればいいのだ。そうすればルークは安堵していつもの調子で軽口を叩くだろうし、別段言えないような場所に行っていたわけでもない。
不安を取り除いてやるのも使用人で兄貴分の自分の務めだ。
分かってはいたが。

「秘密だよ」

そう答えれば子供は小さく罵って布団を被った。

「ガイの舌なんか抜かれちまえ!」

それは困るなぁと頬を掻く。
この舌が抜かれてしまえば女性から逃げ回る事態も減るだろうが、ルークに愛を囁く事もできなくなってしまうじゃないか。



吐きのなど抜かれてしまえ