流れ落ちる滝を見ながら物憂げな溜息をつき、大人しく玉座へと帰る。
今日に限ってなんて重たいんだこの椅子が。
椅子を持ち上げるわけではあるまいに。
ジェイドからレムの塔の報告を受けた。無事だったと聞いた。
そして世界は救われた。
けれど。
こんなに無力感を感じたことは初めてかもしれない。
皇帝という何者よりも上にある権力者という存在になって、それなりに自信満々やってきて、それなりに駄目な人間にもなって、それなりに遣る瀬無さやら無力感やら脱力感を感じたことはあったけれど。
「俺には……俺にはあの小さな命一つ守ることすらできなかった、か」
乾いた笑いしか出てこない。
結果的に生きてはいても、一度殺そうとしたことに変わりは無い。
彼の民ではなかった。守らなくてはならないものではなかった。
それでも。
まだ彼は小さかった。子供だった。
肉体的には17才でもまだ7年しか生きていない。
まだ小さな小さな子供。
普通に生まれたならば、親の庇護下にあって愛しく愛しく育てられただろうそんな愛すべき子供。
生きているけど、殺そうとして、そしてその所為でやっぱり子供は死にそうだ。
「そんな俺に何ができるというんだ!!」
「約束を守ることができます」
答えが帰るはずの無い空間で答えが返った。
躊躇いがちに細く開いた扉から顔をのぞかせる赤毛の少年。
気づかなかったなんてどうかしている。
王者が口にしてはいけないタブーを、苦悩を口走っていたというのに。
来ていたのか、はい、と言葉を交わして沈黙。
多分続きを待っていた。彼の口から出る許しの台詞を。
なんて汚い大人に成り下がったのだろう、この俺が。
「……さっきの続きは?」
「えっと、レプリカたちとの約束……それは陛下だけじゃないけど、やっぱりピオニー陛下とかインゴベルト陛下とか国の一番偉い人が頑張ってもらわないとできないことだから……」
「そうか」
「はい」
それは確かに子供が居なくなった後でも罪悪感を消すための方法で。
でもきっとそれだけでなくて、それだけでしかない。
国のための政策で、子供に許しを請えることではない。
「俺を恨んではいないか?」
「……恨んで欲しいですか?」
「俺を憎んではいないか?」
「……憎んだ方がいいですか?」
恨みを買うことも、憎みを買うことも、厭わないけれど。
恨まれたいわけじゃない、憎まれたいわけじゃない。
その方が楽かもしれないけれど、きっととても悲しいのだ。
何故だ、如何して、今回に限ってそんなことを思うんだ。
この子供がこんなにも愛しいからだろうか。
真っ直ぐに見つめてくる視線を受ける。
「今もう一度あの時に臨んだら、恨むかもしれません……憎むかもしれません……でも」
「俺に存在価値をくれてありがとう」
直視できなくなって震える手で額を覆う。
おまえの小さな命一つ守れなかった俺にその言葉は重すぎる。
王者は重みを背負い
※世界の終焉十題・叫(01)
やばい矛盾。存在価値をくれたのはジェイドじゃないか、おい。
レムの塔はもう一度やるので見直します……でも今は最後の台詞が気に入っているので消さない。
お題は此処から→リライト