「約束したからな」
約束通りそう言った俺に、奴の仲間は歓喜した。


* * *



「あなたは嘘が上手いんですね」
にこやかな顔を向け、含みのある台詞を密やかに落とした男に視線を向ける。
「何のことだ?」
「ああ、そうでもありませんか」
さりげなさを装って警戒する彼に、嘲る様に男は口を動かした。
「(アッシュ)」
音無く呼ばれた名前に。
―――――ピクン、と頬が強張る。
その些細な動揺を器用に読み取った男は嗤った。
「彼はとても嘘が下手でしてね」
何を知ったようなことを、と思う。
だが同意できることではあって。

"もうすぐ死ぬんだって分かってたから今度は恐くないのな"
死にたくない。死にたくない。死にたくない。

と奴は言った。

"アッシュさ、帰れたら……あいつらよろしく"
死にたくない。死にたくない。死にたくない。
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。


そして笑った。

そんな思いくらい言われなくたって分かるけれど、さらに言えば繋がる思考が口にした言葉くらいで騙される訳がないと言うのに。
愚かしくも哀しい。
生きられるとは思っていなかった。それでも帰れたのなら叶えてやろうとらしくもなく思ったのに。
それをやはりこの男が阻むのだ。

同意は嘘の肯定か、否定か。

「……お前だけはだませないだろうと奴も言っていた」
「そうですか」
嬉しそう、とも見えなくは無い。だがこの男は表情が読めない。
彼が姿を現したときも、仄かに歪んだ口元以外に変化は見えず、気づかれたことにさえ気づかなかった。
「でもまぁそれも何時までも騙せるわけではありません」
「そうだな……」
「ルークの被験者であるあなたがそこまで嘘が上手いとも思えませんし」
どういう理屈だと口を開く前に。
「こんな茶番は早々に止めて、探しに行ったらどうです?」
「どういう……ことだ」
何処に探しに行くと言う。
一方的な”約束”を押し付けて、消えていったレプリカを。
"約束したから"
だから帰ったら、その時の始めの台詞はそう言ってくれと、そう言った。
「可能性の問題ですよ」
落ちてもいない眼鏡に指を掛け、上げる。
角度で光った硝子がその瞳の色を隠す。
「コンタミネーション現象が起きたとしても、あなた一人が生き返ることはおかしい。
……それほどルークの死は確実でした」
お前も死んで居なければおかしい。変だと言われて肝が冷える。
それだけあのレプリカの死を確信していてなお、何を言うのかとも思う。
「ローレライならば……あなた方といわば完全同位体である第七音素ならば乖離した音素を掻き集めて人を作ることも可能ではないでしょうか。元々レプリカは第七音素で出来ていますし……現にあなたはこうして作られた」
その理屈は確かに一理あると思わせられる。
―――――こじつけの様なその可能性にすら引かれる。
「そんな都合の良いことがっ……」
あるわけがないだろうと思う。
けれどその続きはどうしても口から出ていかなかった。
その言葉は引き裂くのは自分自身の希望だけではない。

「私が帰還を願ったのはあなたではありません」
「……相変わらず酷ぇ野郎だ」
「ええ。2、3年じゃ変わりませんよ」
「そりゃそうだな」
「あなたも自分一人が助かったなんて後味が悪いでしょう」
「今更だろう」

そんな寒々しい会話の後ろから
――――衝撃。
「もー二人ともなに話してるんですかぁ!大佐でもルークの独り占めはだめですよぉ!!」
「すみませんアニス」
にこやかに、あくまでも仲間が帰ってきたことを喜ぶ顔を崩さない男に思う。
仮面のようだ。
そして、彼もまた瞬間的に奴の仮面を被る。
「わりーな。ほら、行くぞ」
屈託無く。
無邪気に。
受けてきた言葉を思い出して。

いつかばれる嘘を突き通すか否か、今はまだ答えを出せなくて。

―――――見え隠れする希望を粉々にする恐怖が抜けない。



面裏の



※消化不良……書きたかったことがなんだかどんどんずれていく気が。あ〜れ?
「探しに行くぞ、オー」で終わりのはずだったんですが…そのうちリベンジ(無理)
一応ジェイドvsアッシュ→ルークでちゃんと気づいたガイと三つ巴になるといい。
EDは見ましたが、クリアしたわけではないので色々おかしなところが出てきたら直します(汗)