大佐の言い方は上手いと思う。
ティアのような人間であるならまだしも、ルークのような単純ではあるが、我侭放題に育ったらしい人間を思うように動かすのは困難だ。
少なくともティアは短い道中だけでも苦労してきた。
―――それを、こうも簡単に。
「ティア、どいてろ」
「……ありがとう」
大佐曰く”良い物”を手に入れるために、貨物を動かすのを代わってくれる。
それはちょっとした感動だった。
手伝ったほうが早く終わるのだろうけれど、きっとああ挑発されたら任せたほうがいいのだろう。その判断から大佐に並んで後ろからルークを見守る。
うんしょ、うんしょ、という雰囲気で引っ張るが中々動かない。
服に覆われていない腹筋は綺麗に割れているから筋肉はそれなりにあるのだと思うが、何故だろう。妙に頑張って引っ張っている。
時々とんでもなく常識知らずなルークだから、要領が分からないのかと思わないでもないが……ただ引っ張るだけの単純作業に要領も何も無い。
(本当に力が無いのかしら……?)
だったら、とこっそりと口元に笑みを浮かべる。
寝顔はかわいらしいが、普段は小憎らしいから尚更。
「(可愛いなぁ……)」
悠長なことをしている時間は無いけれど、もうちょっと見ていてもいいだろう。
「(うっ動かない……)」
どうしよう、どうしよう、どうしよう、と頭の中がぐるぐるする。
女のティアがやろうとしていたことがまさかできないなんて言えるか。否、言えない。
(くっそーガイもいないしなぁ……役に立たねー)
こんなときに居なくてなんのガイだと聊か酷い八つ当たりを心の中でしたところで、一向にその箱は動いてくれない。
「ご主人様、ファイトですの。頑張るですの」
「ぅるっせーなブタザル!」
もっと役に立たない小動物(?)に励まされてギロリとにらむ。
踏みつけなかったのは単にそれで手を離したが最後、一人で動かせないんだとばれたらまずいからだ。
それにしてもこのブタザル……気が散る。ていうか気が抜ける。
気力すら吸い取られてる気がするのは被害妄想だろうか。ついでにジェイドがにっこりと『いけませんねぇ』とか言ってる顔が思い浮かんだのも。
「……まさか動かないなんていいませんよね?」
「うっ…うるせーな!」
いい加減(飽きたのか)痺れを切らしたのか、揶揄のように飛んできた声に咄嗟に怒鳴り返したけれど。
「……うぅ……」
(……マジ動かねー)
「(……本当可愛い!!)」
「(ふむ……可愛いですねぇ)」
そう簡単にごまかされては勿論あげないが、いつもの調子で『なんで俺様がこんなことやんなくちゃいけないんだよ』と一言言えばその高いプライドを傷つけることなく降参できると言うのに。
なんせ修行がなければ箸より重いものなど持ったことがないと言っても信じられたくらいの箱入りお坊ちゃんなのだ。
※動かせなかったりして(っていうかむしろ願望)と言ったら見せてくれた人にさっき動かしてたじゃんと言われてしまいました……てゆーか引けないなら押せよ。(ゲームではちゃんと押してましたが。)