皇帝の部屋は夜もとても賑やかだ。と言っても息遣いの音と、寝返りの音が幾つもあるだけだけれど。
5匹と2人。
部屋には温もりも、動く気配も、沢山あるけれど間違わずに声を掛ける。
「何処に行く気だ?」
手繰り寄せて頬を寄せる。
「へぃ…か……」
戸惑ったような、怯えた様な、頼りない応え。
間違えるはずも無いが、とりあえず俺の可愛いブウサギはけれどそこまで可愛くない。
「えと、あの、ちょっと……そこまで」
下手すぎる言い訳に暗がりの中でひっそりと笑う。
服はいつも好んで着ている白い上着に、手には与えた剣。
どうみたって戦闘準備万全だ。
「アスランから何か聞いたのか」
このところこの皇帝が居るグランコクマも夜は物騒な話が絶えない。
ルーク夜こんな風に抜け出す場合、たいていがアスランとそんな話をした後であり、翌日のびたゴロツキが発見される。
導き出されるものなど簡単な図式だ。
ここに居る事にルークが引けめを感じている事は知っている。気づいているというべきか。
自分から人を頼ってきたくせに、保護してやればそれが恐ろしいなんて、まったく可愛くて仕方が無い。なんて可愛い生き物なんだ。
(ジェイドの奴もたまにはいいことするよなぁ……)
彼がジェイドが生み出した技術の被害者
――というのはおかしいか。それが無ければ生まれてはいなかったのだから――であることは知っていて、だからこそひねくれて居ない事に純粋に感謝する。
が、可愛いのは非常に結構な事だが、こうも信用されないのでは悲しいものがなくもない。深い溜息はその所為だ。
「ここはおまえの家だ」
家に居るのに何もする必要は無い。無条件に帰れる場所だ。
ルークはそれを分かっていない。分かろうとしない。
「家の定義とはなんだ?ほれ、ルーク言ってみろ」
「……父上と母上が居て…ガイとかペールとかラムダスとかメイドとか……そんな家族…じゃない奴もいるけど家族が居る場所……?」
「つまり血のつながりが大切というわけか」
困惑したように、けれど欠かせないものなのか、当たり前だったものだったのか、それとも憧れだったのか、そんなつたない言葉を精一杯紡いだ子供に笑みが上る。
一番最初に両親が出てきた事に素直に育ってきたのだということが感じられた。話を聞く限りでは似たような幼少時代をすごしたはずなのに、こうも違うのはなんなのだ。自分はまったく抱かなかったような感情をルークは両親に持っている。
やはり友人の影響なのだろうか。俺の親友といえばあの天下の捻くれ者だし、今は疎遠だが馬鹿と天才は紙一重の奴だ。
「別に……だいたい俺は両親から生まれてきたわけじゃないし」
「じゃあおまえの親はアッシュかジェイドか…あーサフィールって可能性もあるのか?」
「陛下!」
「悪い悪い。まぁ……レプリカに血の繋がった家族が居ないというなら丁度良い」
必死に訴えようとする声に先を言わせずに突きつける。
「憶えておけ。血よりも深い絆があることを」
こういう言い方は得意だった――こういう言い方しかできない。
だが、この可愛い生き物はこういった強気な言い方に滅法弱い。
「ってことで、出かけるなら明日にしろ」
「わっ……陛下!」
唐突に緩めた空気に付いてこれなかったのか、ちょっと力を込めただけで簡単に落ちてきた体をしっかりと抱えてにんまりと笑う。
「ちょっ……陛下!放してくださいってば!!」
「駄目だ。放したら逃げちまうだろ」
「逃げません!」
「それでも駄目だな」
「なんで!」

「俺がこうしてたいからさ」

流石に呆れたように沈黙したルークに同意するようにブウサギがブーと鳴いた。



れるな。

よりもがあることを