女神に、なりたくはありませんか?

それは一体全体なんの押し売り文句だろうか。

「はぁ?」
「英雄より余程崇高な存在だと思いますが」

しかもにこやかにその押し売り文句を口にする相手が、胡散臭い笑顔を浮かべたかなり年長の男だ。顔は若いが、35歳。マルクト軍人、ジェイド・カーティスと名乗った。階級は大佐だそうだ。どのくらい偉いのかしらぬぇーけれども。とりあえず町の偉い人間からは頭を下げられる立場に居るらしい。ティアは将校にしては礼儀正しいと言ったが、でもおい、ティア。これを見てもそんな事がいえるのか。此処には居ない奴の事を考えても仕方ないけれど。

「……あんた何言ってんだ?」
「ふむ。この段階ではまだ何も聞いていないということですか……」
「あぁ?」
「失礼。こちらの話です」

こいつぜってー可笑しい。変だ、変人だ。
これがガイの言う危険な奴だ。だってマルクト人だし。しかも軍人だし。
また浚われるのか?冗談。

「大体この俺が女神?笑わせんなよ。どこをどーみたら俺が女に見えるっつーの」
「どこをどう見ても女性でしょう」

すっぱりはっきりあっさり。
俺の秘密を見破ってくれた奴に距離を取りたくなるが、それこそバラすことになるから動けない。だってなんら具体的な根拠は上げてない。大丈夫、まだごまかせる。

「そうですね。どこをどう見たらと言えば、まずその胸。潰すのは良くありませんよ。それに肩幅。貴方くらいの歳で剣を嗜んでいるならもう少し発達していなければ可笑しい。それに腰も安産型ですね。ああ、お腹周りも……」
「そうだとしてっ!」

こいつは変態だ。間違いなく変態だ。しかもかなりヤバイ。
ガイ、おい、さっさと来いよ。この際ティアでもいい。おまえ責任もって届けるっつったろ、だったらこのヤバイ奴どうにかしろよティア!!

「俺に何の神様やれってーんだ?」

奴はイヤーな顔で笑う。そう、背筋が寒くなるような、蛇に睨まれた蛙の心境というか(俺はそんなもん知らないけれど)、ともかく胡散臭くて逃げられない。怖すぎる。なんだよこいつ。
どうにかなんないかと聞いてみたが、やっぱり言うな。これ以上口を開くな。もういいから!

「勝利の、女神ですよ」

俺の無言の抵抗むなしく吐かれた言葉はやっぱり可笑しい。台詞は気障なのに笑えないし、泣けないし、感動もない。ただただ笑顔の強制が怖すぎて、ティアとガイを呼んでみた。



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