不摂生には気をつけて
コンビニのビニール袋を抱えて軽快に階段を上る。
二階の角部屋。
ピンポーン。
チャイムを鳴らして誰も出てこない。まぁ想像の範疇で、だから玄関の扉を押してみる。
(開いたよ……)
戸締りなどの用心は怠らない性格のはずだけれど。
「ルルーシュ?」
キッチンを抜ければすぐ部屋という標準的な一人暮らしの1Kの間取り。小奇麗というよりはなにも置かれていないキッチンを抜けて唯一の部屋を開ければ、家主はマスクをしたままベッドに横になっていた。
息苦しくないんだろうか?それとも一応気遣いだろうか。
目は開けているので気づかなかったわけではないだろう。
「飲みもの買ってきたよ」
「・・・・・・ああ、ありがとう」
勝手に床の上に座り込んで荷物は隣に勝手に置く。
頼まれた飲み物はルルーシュが手に取れる距離に出して、その他に袋の中に残っているものをごそごそとかき混ぜた。
「ヨーグルトとかプリン買ってきたけど食べられる?」
三連のプリンとヨーグルトを出して見せるとひょいと手が伸びてくる。
取るには距離が少し足りない。ルルーシュはべったり背中をベッドのスプリングにつけたままだ。
「プリン?」
「ああ」
「じゃあちゃんと起きなよ」
ヨーグルトを床において空いた手を差し出し、引っ張り起こす。
背中にクッションを入れてとしてあげたいところだけれど、生憎と一人暮らしの男の家にそんなものはない。
壁に寄りかかるようにして体勢を落ち着けるのを待ってパックから出したプリンとプラスチックのスプーンを手渡す。
コンビニ万歳。
スプーンくらいこの部屋にも一応あるにはあるが、後で洗うのが面倒くさいということで日に日に使い捨てが増えている。
「熱は?」
「まだ37度台」
「ルルーシュは平熱低いもんね」
辛いだろう。正確には言わなかったがまだそれなりに高いはずだ。
触れた額がじんわりと熱く感じる。
元々そう体力のある方ではないから昔から熱を出すことは自分よりもずっと多かったルルーシュだが、それにしたって今回のは完全に生活がまずい。
この家に来るだけでどんな生活をしているのか想像できるくらい何も無い。
「君って本当一人になるとなんにもしないよね」
「おまえも人のこと言えないだろう」
「そんなことないよ」
多分、ルルーシュよりはましだ。その程度だけれど高校のときから寮生活をしていた自分の方が多分まだ人間らしい。
ルルーシュは大学に入ってから一人暮らしを始めた。
大切なナナリーと離れて。
分かったことはナナリーが居なければこの友人は何もしないということだ。生活能力はばっちりしっかり持っているのに。
「面倒を見る相手がいないと本当……昨日髪乾かさないで寝たろ」
「そのくらいで風邪を引いたりしないさ。だいたいそれはお前も一緒だろう」
でなければそんなにくるくるなものかと髪をビシリとさされてうーんどうしてくれようと思う。
別にぼさぼさなわけじゃない。確かにルルーシュみたいにしっとりとおちつけてはないけれど。
「似たもの同士だね」
「どこがだ」
無難にまとめようとしたのに即答されてだよねぇと乾いた笑いを返す。
どちらかというと正反対だ。
ただ、間逆というのは直線距離だ。ある一点を除けばとても近いことでもあって。
「まぁおまえが風邪を引いたらちゃんと見舞いに行ってやるから安心しろ」
「そんなにやわじゃないよ」
同じ生活態度だとしても基礎体力が違うのだ。
インフルエンザでもないし、同じ場所に居たからといってすぐに倒れない。
「じゃあ持ち帰れ」
「じゃあマスク外してよ」
一度言葉を切って、わざと少しだけ声を低める。
「キス、できないよ」
ニッコリと笑ってみせたら”馬鹿がっ”とぽかりと殴られた。
なんだ結構元気じゃないか。