犬猫ロンド:
ふらりと居なくなる。
なのに気づくと奴はそこに居た。
「おまえ猫科だよな」
きょとんとした顔は一体こいつはなにを言い出すんだとでも言いた気な雰囲気を醸し出している。
言いたければ言えばいいと言いたいところだが、生憎と黒子は現在バニラシェイクを飲料中だ。
ずごーっと音を立てて最後の一滴まで飲み干したのだろう(原料的に無理だが)。コトンと紙コップをテーブルに置いてから奴は返答らしき言葉を口にした。
「ネコ可愛いじゃないですか」
「ふてぶてしいのも居んだろ」
可愛いと称したととられるのは癪でけっと吐き出す。
この人を待たせてもなんとも思わない態度、ふてぶてしいどら猫にそっくりだ。
「まぁ可愛いだけの生き物に例えられるとは思ってませんが」
じぃっと見つめてくる黒子の視線は正直心臓に悪い。
他意はないと分かっていても誤解が生じる視線だ。
つまり、あれだ。熱い視線はもしかして俺のことを、とならないように気を付けなくてはいけない。いや別に俺は関係ないが。
「火神君は犬ですね」
「おい、言うに事欠いてそれか」
猫ときたから犬なんて安直すぎるだろう。
それよりなにより寒気がする。
「あれ?鳥肌立ってますよ」
「てめぇが恐ろしいこと言うからだろうが!」
よりにもよって犬!
なんで犬!!!
この世で一番苦手なものになんで例えられなきゃならんのか。
「愛嬌があって可愛いじゃないですか。本当柴犬にそっくりですよね」
「うっせー」
犬種まで限定か。なんか具体的すぎやしないか。
「犬ならまだライオンの方がましだな」
「ライオン、ですか……」
誰かがそんなものに例えたときのことを思い出してげんなりと呟けば、なるほどと考え込む姿勢を見せる。
「確かに、ライオンも凶暴そうな中に愛嬌がありますね。ぬいぐるみとか」
「……ぬいぐるみかよ」
それ以上突っ込む気力も起きない。
なんにしたって相手を評価する根本的なところは変わらないのだ。