reason why:
「俺達さぁ、ちょっとお金が欲しいんだけど」
繁華街を歩いていると結構な確立で起こりうる状況だ。別に学校でも同じだけど(あ、でもヒバリさんに見つかるとトンファーでぶん殴られるので並盛中ではあまりかつあげはされない)。
いじめっ子とか不良とかそういうのに何故か好かれる体質なのだ。弱気が滲み出ているのか、そういう星の元に生まれてきたのか。どっちにしても嫌な事だ。
まあそんなこんなで慣れてはいるけれど、いつもだったら震え上がって壁に押し付けられるか腰を抜かすかのどっちかなのだけれど(そして適当に出すもの出してすたこら逃げ出す)、どうした事か本日いかにもな風体の不良さんたちに囲まれたとき平然と地に足を付けて立っていた。
「あれ……?」
自分で知らず首を斜めに傾ける。
「何が”あれ?”だ。おい財布出せや」
「うーん……恐くない?そんなまさかっ」
何か言っているような気がしたけれど、それどころじゃない。この変な違和感はなんだろう。
一人、二人、三人。
相手は集団というほど多くは無いけれど、顔からしたってかなり物騒な部類に入るだろう。一人だって震える気満々だ。
「まさか……」
ふと、最近の恐怖体験――――骸なんて物騒で危ない奴と戦ったり、家庭教師による理不尽な暴力とか、風紀委員長による恐怖の視線とか、そんなのを思い出す。もしかしてあれか、こんな感じのカツアゲさん程度じゃ恐怖なんて感じなくなるくらい嫌ーなものに当たりすぎたんだろうか。
――――つまり慣れた。
「嫌だなぁ……」
諦めの早さと順応能力の高さはリボーンの折り紙つき。
その可能性は結構かるかもしれないと思うあたりが自分でも悲しい。
「ええと、お願いだから早めに引き上げてくれないかな?」
へろへろと曖昧に笑って自分よりは背の高い不良さんたちを仰ぎ見る。
そうじゃないと色々面倒なことになると思うんだ、うん。
経験上これから起こる事体がなんとなく想像できてしまって俺は必死で訴えかける。別にカモにされた相手に同情してやる必要はないんだろうけど、警察沙汰になったり、変に恨みをかったりしたら面倒だし。
そもそもここは店の並び立つ一角で、ツナの顔を知っている並盛の生徒やご近所さんがいる可能性も高い。沢田さん家の息子がごにょごにょなんて噂がたったら堪らない。ご近所の評判なんてもうとっくに今更な気がしないでもないけれど。
例え自分じゃない誰かが起した騒動でも、なんでかいつの間にか自分の所為になっているなんて理不尽さは当たり前すぎて、いい加減諦めは付いたけれど、それでも常識をなくしたわけじゃない。
でも、そろそろ……
来るんじゃないかなぁ。
「十代目!」
”ほらね”と諦めの混じった生ぬるい視線を向けると、多分遠目からこの状況を分かっちゃったんだろう。
ギンギラギンと輝く獄寺君の目は、標的ロックオンされている。
(う〜ん早いなぁ)
だって今日は元々一緒に遊んでるんだ。適当にゲーセンで遊んで、ぶらぶらと買い食いして、買い物して、そんな平和な放課後を過ごしてたんだから当たり前だ。
「てめぇら十代目に何の御用だ?」
あぁん?と人の前に立って凄む獄寺君を見てふとさっき浮かんだ恐くない理由に別の回答が閃く。
こいつの所為かも。
獄寺隼人という男は格好だけで見ればそこらの不良さんよりよっぽど恐い。というか獄寺君の引き起こす騒動の方が不良に絡まれるよりも厄介だ。ただし最近周辺に被害がなければ許容できてしまう辺り、これまた慣れきっている。
「俺大丈夫だからダイナマイトは止めてね!獄寺君!!」
「そうっすね。こんな奴らにダイナマイト使うのも勿体無いですね……おい、てめーら十代目の寛大さに感謝するんだな」
前半は甘ったるく、後半はドスの聞いた声で。
どのみちぶん殴られてぼこぼこになるのだから感謝する謂れは無いだろう。それにダイナマイトの方が綺麗に一瞬で実は親切かもなどという恐い想像にぶんぶんと頭を振る。
(ホントその思考はヤバイから。ダメだから……!てか殴るのもダイナマイトも痛いから!!)
必死に物騒な思考と常識とを戦わせながら騒動が終わるのをぼんやりと待つ。
絡まれていたのは俺なのに、一人申し訳ないなぁとは思うが、かといってあの中に突っ込んでいく度胸はまったく無い。いくらもしないうちに獄寺君が一人立っているのがゆうに想像できることもある。というかそれ以外は想像できない。普通の喧嘩だって獄寺君は早々負けたりしないのだ。
「お待たせしました十代目。大丈夫でしたか?」
「うん、ありがとう。ごめんね、まかせっきりで」
パンパンと手の汚れを払うように、一人想像通り立ったままの獄寺君は俺を見てニカッと笑った。
「任せてくださってありがとうございますっ!てかまったくふてー奴らですね。俺の居ない隙に!申し訳ありませんでした」
「いいよ、いいよ。頭下げたりしないでね。だいたい飲み物買ってきてもらったんだし」
そこでまたあっという顔をして、獄寺君は慌ててポケットから缶を二本取り出した。
一本は珈琲だけど、もう一本はコーラの赤い缶だ。
「しまった炭酸……!!」
当然上下左右動く体に合わせて缶の中身も当然揺れただろう。つまり今開けたら泡が凄い。やばい。炭酸なんか全部抜けて甘っとろい水になるだろう。
買いなおしてきますと再び飛び出していきそうな獄寺君の腕を何とか捕らえることに成功する。やっぱり俺、スピードが付いてきたんだろーか(動きは当然運動神経の良い獄寺君の方が素早い)。
「いいよいいよ!ちょっと待ってから飲むから!!」
「ですが……」
「ほら、さっきの人みたいのがまた来るかもしれないだろ?」
そしたら誰が守ってくれるんだよ、と言ってみる。
それは友人としては反則だけれど、獄寺君の思考はかなり反則なので、わりと躊躇いはない。ちょっとした良心の呵責はあるけれど、それでもまるでパシリみたいにさせるよりはよっぽど気が楽だ。
余談だがこれをリボーンに言わせると、部下の扱いがやっと分かってきたじゃねーかとなる。
「何処に居ても十代目をお守りいたしますっ!」
キラキラと輝いた目で、安心してくださいと主張してくる獄寺君とはあんまり意思の疎通が成り立たないのだけれど、実際飛んできてくれた後に聞くと(しかも今回はまともな助け方をしてくれたし!)なんとも頼もしく聞こえて。
(あ……)
恐くなかった理由の回答がもう一つひらめく。
もしかしたら、すぐに獄寺君が来てくれるって分かっていた所為かも。
……なんて。