君は、今も:
総合学習という時間は、わりと何をするのか分からないというかなんでもしている時間である。
例えば地域のごみ拾いとか、ドッジボールとか、修学旅行の計画だとかクリスマス会だとか。
カツっと白いチョークの粉もまぶしく黒板にでかでかと書かれた本日の課題をツナは別段興味も感慨も無く溜息と共に繰り返した。
「タイムカプセルかぁ」
そういえばうちの学校は毎年やってるっぽいことは知っていた。前にありもしないものを掘り出せって言われたし。
今年は十年後の自分に手紙を書いて、埋めようというらしい。
自分に手紙なんてめんどうっていうか気恥ずかしいし、あーどうしようかなぁと配られた線が引かれただけの便箋をひらひらと宙に泳がせる。
(十年後だろー大学くらいは卒業してるよな。で、普通の会社員)
絶対、絶対、イタリアなんかに行ってない!
日本にいるか分からないなんてそんなこと思っちゃいけない。
(今日は獄寺君休みだし、リボーンもまあ現れてないし!洗脳される要素は無いんだからなっ)
自分に蓄積されてしまった騒動と言動以外には。
……それが又曲者だ。
ここは何だかんだでその中にいつも居るけれど、やっぱり普通の友達たる山本と話して正気に戻るべきだよ、うん。空気を読むのが上手いのか、くるりと振り向けば当の山本がにかっと笑った。
「なーツナ。自分宛てっつーのもつまんねーしさ、交換しねー?」
「交換って俺が山本に書いて、山本が俺に書くってこと?」
「そ。そのほーが面白いだろ?」
「そうだね!なんか自分に宛てるって変な感じだし」
「じゃ、決まりな」
にこにこと決定を告げて便箋に向かい合った山本に倣って、さっきよりも真剣に(いや、さっきもある意味真剣だったけど)シャーペン手に便箋に向き合う。
『山本へ
元気ですか?君は今も俺といっしょに居ますか?
なんてさ。
山本はきっと有名選手になって忙しいんだろうなーとは思うけど。うん、でもやっぱり一緒だといいな。色々あって毎日騒がしいけど、山本や獄寺君と一緒に居る今は凄く楽しいから。
もし、いっしょじゃなくてもこれ見て思い出したらまた一緒にあそんでやってね』
「よしっと」
恥ずかしい気もするけどまあいいか。
今見るわけじゃないし、10年後だったらきっと笑って済むだろう。
*
「山本ー何見てんの?」
「あぁ、親父から送られてきた手紙の中にさー懐かしいもんが入ってて」
なになにと覗き込んでくるツナに少し黄ばんだ紙を見せる。
「ほら、タイムカプセルの手紙。この前掘り返したらしいぞ」
「そーいやもうあれから十年かぁ……なんか予定と大幅に違う」
「そーでもないだろ?」
えーとツナは同意してくれないけれど、でも本当に俺としては予定通りなんだけどなー。甲子園にも行ったし、今も時々ボールは投げる。イタリアじゃあんまメジャーなスポーツじゃないみたいだから草野球みたいなもんだったり、ツナとキャッチボールしたりとかその程度だけど。
で、重要なのはツナと一緒にいるってとこだ。
それが日本じゃないなんてのは些細な事だし、マフィアなんてやってる未来はそりゃ想像なんてしてなかったけど、結局マフィアごっこと主だったメンバーは一緒だしやっぱり些細な事だ。
「俺はツナと一緒にいるし、おまけで獄寺も居るし、毎日ドンパチ騒がしいし、十年前と変わんないだろ?」
「……うん、それがそもそもオカシイんだよな」
主に十年前がとか、俺会社員でそこそこの暮らししてる予定だったんだけどなーとか今更夢でもないことを呟くツナにあははははと笑う。そう言いながらちゃんとツナは仕事してるし、ボスが嫌だなんて言わない。
「あーなんか懐かしくなってきた。俺も山本の母さんに送ってもらおう」
「そうしろよ。俺のもツナへの愛がいっぱいつまってっからさ」
うん、忘れないうちに電話してくる。なんて言って出て行くツナに手を振りながら見送って思い返す。
なんて書いたっけなぁ……
『ツナへ
元気か?おまえと俺って今もいっしょにいるんかな。てか絶対いっしょな。
俺はツナが好きだし、野球はどこでもできるし、どこだって一緒に行くからさ。
だからずっと一緒にいよーな。
あと多分言ってるとは思うけどなんか色々邪魔入りそうだし書いとくな。
好きだ!
』
読んだツナが真っ赤な顔で山本何書いてんのー!?と乗り込んでくるのはもう少し先の話。