だから一緒に:
高校を選ぶのに何を基準にするかといったらやっぱり学力なんだろうけど、その点について生憎と俺には決定権はない。
普通科に行くか、商業科に行くか、工業科に行くか、それとも農業とか畜産とかそっちに行くか。
勉強も好きじゃないしできないし、前なら商業辺りに行ってたんじゃないかなーと思うけど、家庭教師様は横暴にも俺を進学校に入れるおつもりらしい。横暴というか無謀なところに。
入れる入れない――――ではない。
入れ、の一言である。無理だと思ったってやらなきゃ死ぬからやるしかない。
精々私立はレベルを下げておこうと思う。安全パイは必要だ。高校で浪人はちょっと外聞的にしたくない。
うんまあそれだってそんなに幅は広くないんだけど。
パラパラと学校の情報が載った冊子を捲る。
えーと。何処にあるんだって?……げ、ここじゃ電車通学じゃん、めんどい。却下。
こっちもなー自転車で30分か。遠いなー疲れるなー。
できれば近場で(寝てられる!)、騒動にもわりと寛容で(じゃないとすぐに退学だ)、物騒じゃないところ(これ以上はもう沢山!)がいい。
歩きの範囲には流石にないし、疲れるか、面倒かって二者択一になるんだろうか。
あとなー何か基準というと制服か。
私立公立あわせると、圧倒的に多いのは学ランだ。
別にこだわりもないけど……
うーんと唸る。できればブレザーのがいい。今もブレザーだし、詰襟ってなんとなく窮屈そうだし、うん、まあそれは別にいいんだけど。
一緒になって見ている友人二人をこっそりと見て頑張って学ランを着ている姿を想像する。まぁ学ランなんてそんなにマイナーな服じゃないし、幸か不幸か雲雀さんで見慣れているからそんなに苦労なく浮かんでくる。
別に同じところに行こうね、なんて約束をしているわけではないけれど。
「学ラン……獄寺君似合わなそうだね」
はた、と動きを止めてこっちを見てくるブレザーのボタンだって閉めない獄寺君だ。詰襟を全部閉めてるところが想像付かない。だけれども詰襟で前全開にしておくのって多分なしだ。あ、どっかで見た気もするけどなんだっけ。まぁいいや凄く思い出したくない気がするし。普通、詰襟はきっちり閉めるのが着方なのには変わらない。
……ちゃんと着ててもしゃれにならないよーな気もするよ、獄寺君。
学ラン着崩してガン飛ばして煙もくもくしてたら歳相応のヤンキー少年には見えるようになるかもしれないけど。
「詰襟かー獄寺いっつも前開けてるもんなー確かに想像つかねーわ」
「山本は似合いそうだよね」
「ツナも似合うと思うぜ?でもそうだなーどっちかっつーと学ランよりブレザーのが似合いそうだな」
「十代目は何を着たってお似合いだ!!」
どうせ何着たって代わり映えのしない平凡な顔だよ……
口に出したら獄寺君が土下座しだしたりとか何かと厄介な事になりかねないので黙って恥ずかしい台詞にも心の中だけでツッコミを入れる。
「俺だって十代目が学ランの学校に行くって言うなら詰襟くらい着こなしてやる」
「んーじゃーとりあえず雲雀に借りてみたらどーだ?」
「そっそんな恐ろしい事言うなよ山本ー!」
俺らより年上のはずなのに、なんでか未だに並盛中の風紀委員の中に見られる恐怖の風紀委員長を思い出して身震いする。噂をして出てきたらどうしよう。なんか文句ある?とかトンファー飛んでくるのは勘弁して欲しい。OBだし校内に入ってくるのに問題はないんだ。謎なだけで。
いや、でも、あの人確か公立の進学校に行ったはず……頭良いんだと、なんだか当然なんだか不条理なんだかよく分からない感想を洩らした覚えがある。
「だいたい襟の詰まったもんなんか着れるかっつーの」
「なんで?」
ネクタイはちゃんと付けてるから窮屈だからという理由だけではないはずだ。
「得物を出すのに支障が……」
獄寺君らしいといえばらしいらしい理由にあははと苦笑いする。なるほど。何処からそんなに出てくるんだろうと(いや、懐から取り出してるのは見るけど!)いうくらい大量のダイナマイトを体に仕掛けている獄寺君が、どこに持ってるんだろうと思ってたけどやっぱり服の上着の内側にしまってたんだ(あれ夏場とかってどうしてたっけ……)。
うんまあ細かい事は置いておいて納得……しちゃ駄目だって。
そもそも容量的に可笑しいから!
「あ、十代目ここどうっすか?合格にランクがあって腕試しにもなりますし」
今までのやり取りを綺麗にスルーしてニコニコと差し出してくるのを覗き込む。あ、ブレザーだ(気にしたのかも)。
こうやって一緒に探してはいるけど、だから本当に別に約束してるわけじゃない。
けど獄寺君は多分志望校を一緒にする気満々だ。
「あ、十代目ここも良さそうですよ!」
さらに別の一冊から探し出した学校を次々に並べていく、その悉くがブレザー。
……多分じゃない。絶対だ。確実だー!
別にマフィアに日本の学歴なんて関係ないだろうけど、何処に行っても獄寺君が授業を受けなくても満点取るのも変わらないだろうけど、できるだけリボーンの決めた第一希望に行こう、うん。
獄寺君に学校という場所は学術的な勉強をするところではない。
授業に出て無くても(出ててもまったく聞いてない)教科書を読めば分かるという勉強のできる獄寺君に、そんな場所は必要ない。
それでもちょっとでもレベルが上の学校に行って、指導がしっかしりてるところに行こう。それが獄寺君のためひいては自分のためだ。
「頑張るよ……一緒に高校行こうね」
そして常識と協調性を身に付けさせよう。
それは教師では無理なんだという事実に気づきそうになるのに蓋をして、めぼしい学校に印をつけるために持っていたマーカーを握り締めた。
※矛盾はスルー!突っ込みどころ満載です。ええ…(遠い目)