6.

徐々に徐々に階段を下りてダンジョンを攻略していく道中、レベルだって着実に上がっているし、相手にした魔物の数はもう三桁になってもいいんじゃないかと思う。けど戦闘の度、俺はやっぱり頭を抱える。

「あぁぁぁっもうっ君なんで魔法使いなのに突っ込んでくかなぁ……」
「あんたが弱いからだろ」

吐き捨てられた言葉は実は事実だ。
確かにレベルの上がった今、何故か接近戦においても獄寺君の方が強い。普通のRPGじゃありえない。
杖でぶん殴るし、足で蹴飛ばすし、拳も唸る。最後にはわざわざ突っ込んで火の手。
魔法使いに負ける勇者ってなに。っていうかなんで君魔法使いなの。
や、爆発させるところなんかはそれっぽいけど。

(プレイヤーの能力に比例とか言うのかなー……やっぱ)

通常のRPGに比べたら戦闘はやっぱり自分が動かなければならない分、そうなるだろう。
神経系がどうなってるのか良く知らないけれど、多分運動神経は影響するだろうし、攻撃を当てるには度胸も必要だ。数値で設定されている項目以外にも能力を左右するものはごまんとある。
ただし、やっぱりジョブのクラスは能力に関係あるようで、突っ込んでいく獄寺君のHPの減りはむちゃくちゃ早い。魔法使いはHPが少なめなのに加え、装備品の問題にもよるだろう。元々後方支援たる魔法使いは守備力だってそんなに高くない。
山本は元々戦士で前衛だし、HPはダントツであるから突っ込んでいったって気にならない。むしろ戦士が引っ込んでても仕方がない。そっちのが気になるからいいとして、俺のHPの減りが少ないのは単にあんまり前線に出ることがないからだ。勇者なのに。
それに勇者は大抵どの装備も使えるから、守備力だけは結構な数値を出してくれる。運はかなり最低な数値だけど、攻撃力だって別に悪いわけじゃないんだ。いい剣は山本に回すけど、でもそれでも剣の類は結構落ちてる。
けど反応が二人より遅いから自然と飛び出すのが遅れるし、そこから俺まで突っ込んでって回復やら集団攻撃ができないのはあんまりいい戦法じゃない。

(ゲームだったら俺もちゃんと考えられるんだよなー)

いつもだったら蚊帳の外で、死ぬ気にならなきゃなんにもできない俺でもこの世界なら参加できる。
拳が全てじゃないし。そういう意味じゃ魔法は便利だ。

「はぁ……本当のことだけど、でもそれ君が突っ込んでく理由にはならないからね」

むっとした顔をしたけれど、獄寺君はそれ以上は口を閉ざした。不機嫌ですって顔をしてるけど、そういえばアレがデフォルトだったはずだ。俺はあんまり機会がないもんだから忘れそうになってた。
まぁこの獄寺君も扱いが分かればそんなに怖くない。
俺、なんで最初獄寺君恐かったんだっけなぁとすら思ってくるから不思議だ。いつもの獄寺君マジック。
正直な話、ちょっと退くくらいに俺に好意を寄せてくれる獄寺君が本当に俺に酷い事をするとは思えないのだ。

「ま、俺が出てくより確かに倒すの早いけどさーけどその分回復もテンポ早いし」
「そういやツナ、僧侶そろそろ本格的に必要じゃね?勇者のMPってあんまないだろ」
「だよねー居ないとこれ以上下って行けなそー」

このダンジョン、回復薬をを買える様なお店なんてなくて全部魔物か宝箱からの支給だ。俺のMPが切れれば当然使ってしまう。
宿屋もなくて、HPもMPもお金を払えば回復があっという間ってわけにもいかないし。ただ代わりに休憩というコマンドがあって、休むとHPとMPが少しだけ回復する。
……これも似たようなシステムあったよーな……

(本当ボンゴレ日本で何やってんのー!?)

ゲームと漫画は日本の文化だ。そりゃもう素晴らしい。外国でだって出てるけど、やっぱり日本のこの二つにおける文化は進んでいるはずだ。ゲーム好きな開発者でもいるんだろうか。RPGの有名どころをがっつり変に押さえている。

「でもさー僧侶っているのかなぁ」

問題はそこだ。
正直な話、知り合いで僧侶を希望しそうな人間に心当たりがない。っていうか参加者事体誰が居るんだろう。
とりあえず歩き回っていて人にはぼちぼち会うけれど、良く知った顔にはあって居ない。

「よぉ、ツナ」

っと思ったら出たし。
何時でも何処でもキラキラしくてカッコイイ兄貴分の登場に破顔する。

「ディーノさん!」

しかもなんか多分まともだ。ロマーリオさんを初めとしたいつもと同じ(だと思う)メンバーを後ろに従えているあたり、こんなとこでも究極のボス体質変わらないみたいだし。まぁリボーンのお遊びにこの人がいないわけがないけど。

(っていうか似合うなー)

多分ディーノさんも勇者だ。
装備に俺と同じものがある。

「やっぱり来てたか!ツナ」
「はい。リボーンに放りこまれて……」

俺のから笑いにディーノさんはいつもみたいにあははははとリボーンの恐ろしさを分かち合う笑いをする。
あの恐さを分かってくれるのは、同じリボーンを家庭教師に持っていたディーノさんだけだ!

「ここ回復薬も売ってないし、ディーノさん大変じゃないですか?」
「その辺はいまんとこ平気だな。うちはロマーリオが僧侶だからな」
「わーさすが。いいなぁ……うちも僧侶探してるんですけど、あんまり居そうにないですよね」
「そーでもないんじゃねーか?おまえらの知り合いにも僧侶いるだろ」
「へ?」

誰だそれは。ちょっと期待に胸が膨らむ。
こういうイベントごとに引っ張りだされる人っていうと……
お兄さんとか雲雀さんはどう考えても回復系じゃないし。

(まっまさか京子ちゃんとか……!)

なんだかんだ巻き込まれている京子ちゃんは、リボーンに最新のゲームだとか言って連れてこられている可能性が無きにしも非ずだ。
けれどもそんな俺の期待はディーノさんのキラキラした笑顔にあっさりと崩された。

「毒さそりは僧侶だろ?」
「えぇぇぇぇ!ディーノさん見たんですか!?」
「あ、あぁ。さっき少しだけ一緒に行動してたんだがな。一人の方が性に合ってるらしい」
「ビアンキらしいけど……この階で一人って!!」

信じられない。どれだけ強い僧侶なんだ。
……躊躇わずニフラム?や、でもそれはアンデット系だけだろー
僧侶の攻撃系ってバギ系だけのはずだし、回復はできるにしてもぼこ殴り?
ここでポイズンクッキングなんてできないはずだし…多分……きっと………!
どっちにしても怖い想像にしか転ばない。

そもそもビアンキ暗殺者なのに……常に物騒なのに……悪気があるのかないのか毎日ポイズンクッキングが飛び交ってるっていうのに僧侶!?いくら毒は適量なら薬になるっていったって。
っていうか毒殺得意なら盗賊になればよかったのに。この姉弟どっか変。

(ていうか参加してたんだビアンキ……)