1.

何処だ此処は。
一瞬、そんなことが頭を過ぎって、それから急速に情報が頭の中を過ぎ去る。
此処は、世界と世界を繋ぐ”ギアガの洞窟”。
小金稼ぎ、トレジャーハント、鍛錬場所として用いられることもあるが、一番は”魔王”を倒しに来る場所。

――――その1階。つまりは入り口というわけだ。

チームは組んでいない、だが目的は魔王退治。
クラスは魔法使い。得意とするのは爆発系の呪文。

クラスとは”職業”という言葉が一番近いだろう。戦闘スタイルでもいいのだが、一部がそれを否定する。
戦士、武道家、魔法使い、僧侶、盗賊、商人、遊び人……そして勇者。
大抵はこの8つに分類される。
賢者というクラスも存在はするが、特殊なクラスで滅多にお目にかかる事は無い。
そして、稀少という点では勇者も同じだ。
勇者には血統がある。勿論魔法使いにも戦士にも優秀な血統というものは存在するが、勇者のそれとは全く異なる。
攻撃魔法と回復魔法、それにあらゆる武器を使う戦闘スタイル。それだけならば個人の好みだ。
だが勇者特有の魔法というものがある。
攻撃魔法と回復魔法。この二つを習得している人間は案外多い。魔法の構成は違うが、使える奴は使えるし、これは魔法使いに多い事だが一つのクラスをマスターしてしまった場合、新しい魔法を生み出すためにも別系統の魔法に手を出す事は多い。
だが、攻撃においても、回復においても、最強の効果を誇るその魔法を使えるのは、由緒正しき勇者の血統だけなのだ。

自分にはその血がない。由緒正しき魔法使いの家系ではあるけれど、どれだけ鍛えても、技を磨いても、それだけは使えない。だが、それが脇役に甘んじる理由にはならない。
勇者の手伝い?クソ食らえだ。
自分一人でも魔王なんてやつ倒してやるよ。そして勇者クラスが血統のみで成れるもだという事実を覆してやる。
元来、勇者という言葉はクラスではなく英雄につく称号なのだ。

「ま、行くか」

状況は分かった。一瞬頭を飛ばしたのはおそらく移動魔法の効果か、戦闘後にダメージを負っていたのだろう。
装備も、魔力も、破損や消耗はない。痛む部位も無い。
大丈夫だ、問題ない。
次に出たらぶちのめしてやるって……

「早速お出ましかっ!」

唇に笑みすら浮かべ、無意識に懐を探る。何をしているんだと訝しく思ったが、眉を寄せるだけに止め、精神を集中し、素早く魔法を編み上げる。
精神世界[アストラル]で構築が終われば、発動はたった一言でいい。

「イオ」

爆音が狭い洞窟内に轟く。
一帯を覆いつくした煙で視界はゼロだったが、意に介さずずんずんと進んでいく。もう敵は居ない。そのことが分かっていた。
頭の中で自然にファンファーレが鳴ったが、気にしなかった。
誰かが何かを言っている。違和感を覚えはしなかったが、そもそも聞き取るつもりもなかった。
ただ、その声に何故か焦燥を掻き立てられて、過ぎ去った情報を頼りに階下への階段を探しに向かった。










































2.

こぶしを握って開いておおっと少し感動する。
かなりリアルな感覚がある。
仮想現実世界なんて映画の中だけだと思っていたけれど、意外と現実に近かったんだなぁ。
こんなとこで技術の進歩を思い知らされるとは思っていなかった。
腕についた金に青い石の嵌った腕輪を生ぬるい目で見てはははと笑う。
一見腕輪に見えるけれど、これがいわゆるコントローラーの役割を果すのだ。
パロメータと呼ぶらしいこの装置は、従来のRPGのように、装備やら道具やらの変更・使用と強さなどのコマンドが並んでいて、話すだとか調べるといった人間が行えるコマンドは抜けている。後はパーティーを組むときはこれに登録するらしい。

ボンゴレの財力と技術をふんだんに使い、ゲームと漫画を(実際はそれに付随するだらだら感を)こよなく愛する十代目・沢田綱吉のためにそれは開発された。

「よくやるよねぇ……」

ゲーム会社ならともかく、マフィアで作るには技術の無駄遣いだ(多分)。
意外とマフィアって暇なんだろうか。いやいや作ったってやる時間がなかなかないんじゃないだろうか。
呆れてはいるが、楽しみではある。
仮想現実の、世間は未だ3Dが限度の世界が目指す形態のゲーム。
ストーリーはお決まりのRPGで宝物を集めて、ダンジョンを攻略、ラスボスへ突入だ。
パーティーは4人編成。
プレイヤーが自分で見つけ、交渉するというのだから、一人でやるとしたらまず手は出さないゲームだ。

「でもま、やってるのって皆知ってる人ばっかりだもんな」

その点は物凄く気楽だ。誰がやってるのか正確には知らないが、ボンゴレとその協力関係にある人間だけだし、少なくとも獄寺君と山本は一緒に入ったので確実だ。スタート地点はばらばらにされるらしいけど。

「あいたっ」

本当に殴られたような衝撃にごろごろと転がる。背後にモンスターが居たの気づかなかった!
出だしからこんなかよ畜生。
普通のゲームならちょっとHPが少なくなってげーとは思うけど、大した事の無い減り具合なんだけど、ゲームなのに痛いのは嫌だなぁ……
日常でも訓練でも痛めつけられてるのに何が悲しくてゲームの中でも痛い思いしなくちゃならないんだろう。

とりあえず初期装備の剣を腰から何とか引き抜く。基本は素手だからなんともおっかなびっくりだ。
ゲームなんだから死ぬ気じゃなくてもある程度運動能力が上がっていると思いたい。
えいと振りかぶった一撃でこれは拍子抜けするほどあっさりとモンスターは崩れた。

「これは気持ちいいか……も」

前言撤回。振り返ったところで崩れたモンスターのグロさにおえぇぇぇと口元を押さえる。
さすがマフィア作。モンスターその死骸もリアルだ。
死ぬ気じゃなくてもあっさり倒せた喜びはどこかへ吹っ飛んでしまうほどのグロさだ。これは確実に子供はやらせられない。ランボとかイーピンとかフゥ太とか来てないだろーな。
一緒には来なかったけれど、神出鬼没な子供たちに一抹の不安を覚える。

「ま、リボーンもまさか放りこんだりしないだろ」

ターッタラッタッタッター。

(あ、レベル上がった……)

まあレベル1なら早々に上がるのは当然として。
思い切り聞き覚えのあるメロディに今更過ぎるがさらなる不安が頭を過ぎる。

「著作権大丈夫なのかなぁ……」

ついでに倒したモンスターの名前はスライムとなっていた。










































3.

足音がする。
カツン、カツン。狭い洞窟の中で反響する。間違いない、この固い皮がぶつかる音に時折まざる金属の音
――――足音だ。
誰かが、そこに居る。
もっとも人であるからといってそれが敵ではないということでもない。
杖を握り締め、いつでも発動できるよう簡単な魔法を組み上げる。万一必要が無い場合は発動の言葉を口にしなければいいだけの話だ。こんな場所じゃ用心に越した事は無い。
歩調は変えず、気づいていることを悟られないように平静を装う。
薄暗い洞窟の中だ。直線状であってもなかなか見えはしない。
まず足が見えた。音から想像したとおり丈夫な皮のゴツイブーツにゆったりめのズボン。金属音の正体は腰に下がった剣だ。

(戦士か……ちっ接近戦じゃ分が悪ぃな)

接近戦もそれなりにできるが、やはり得意とする間合いは中距離だ。
だんだんと見えてくる全貌にある種の緊張が高まって
――――弾けた。

「獄寺君!良かった、無事に会えて」

顔まで認識したところで、向かい合った相手は何故かぱっと顔をほころばせて人の家族名を呼んだ所為だ。
誰だ。胡乱気な顔をしてその相手の顔を見る。
ずいぶんと幼い。小柄で体に厚みも無い。自分よりいくつか下だろうと感じた。
服装は戦士のようだが、このひょろさではもしかしたら盗賊かもしれない。いや、だがどんくさそうだぞ。素早さと器用さが必要とされるクラスを持つ人間としてもやはりおかしい。
だが僧侶は僧服を着ているものだし、魔法使いはこんな長剣を使わない。武道家も然りで、あとはなんだ遊び人……?そんな奴はあまりここには来ないはずだ。
(やっぱ戦士か?単に弱いだけっつー線が有力か……)
なら別に警戒しなくてもいいか。邪魔をするというなら問答無用で吹き飛ばすが、無害な人間を相手にするのは魔力の無駄だ。
思案に顔を逸らそうとして腕の方に目を向けた瞬間、眉間の皺を深くする。
それはあまりにも有名な装備品だった。一目見るだけで分かってしまうクラス。

「あんた……勇者か」


***


いつものように嬉しそうな笑み崩れるわけではなく、不機嫌そうな顔のまま人のことをじっと見つめてくる獄寺君はなんだか至極まともな人だった。やっぱこの人カッコイイんだよなぁうん。顔は本当は凄く綺麗なんだ。普段はすっごく忘れるけど。
格好は深い緑のコートっていうかマントっていうか、こういうのがローブっていうのか。そんなのを着ている。
(うわぁ……獄寺君、魔法使いなんだ……)
似合うといえば似合う。一応理論タイプだし、爆破が得意だし。でも、え、なんでだろう。魔法使いのイメージがなんだか崩れた。魔法使いってもっとこう大人しいというか頭良さそうというか。
(あ、でもこのままのこの顔でいるんならいいかも。どうなんだろーさっきから獄寺君顔変わんないしなー実は表情まではつかないのか?)
けれど何かを見つけたかのようにふいに眉を顰めた。やっぱり表情もつくらしい。眉間の皺までくっきり付くんだから本当無駄に技術が高い。
獄寺君は何が気に障ったのか。
唐突にギンと睨みつけられて思わず一歩後ずさる。

「あんた……勇者か」
「へ……?」

なんだか過去の獄寺君再び。
忘れそうになるけれど、元々獄寺君は俺を殺そうとした人であり、こんな態度がデフォルトの人なのだ。
勇者っていうのはあれだろ、クラス。
そういや当然のようにリボーンに職業も決められちゃったんだよなーと思うとちょっと悲しい。別に勇者のクラスが嫌って訳じゃないけど。マフィアのボスと違ってゲームの中では王道だ。

「パーティーは?」
「まだ組んでないよ」

はっと鼻で笑うような仕草は多分いつもなんだろうけど俺は正面から見たことがなかったから、なんだか無性に腹が立った。だって獄寺君なんだよっ!いつもうんざりするほど俺には肯定的な見方しかしない人だよっ!!なのになんだよこれ。
だいたいいつもは頼まなくたって一緒にやるじゃないか。獄寺君と山本とパーティー組んでる気でいたのにっ!

「始めたばっかなんだから仕方ないだろ」
「それでこんなとこ来てんのか。さすが勇者様は違うな」
「何言ってるんだよ。初めはみんなここだろ」
「こんなとこに来るのは腕に覚えのある奴が殆どだよっ」

それともレベルによってダンジョン分けしてるのか?強い奴はもっと下とか。
なんとなく噛み合っているようで、噛み合っていない会話に首を傾げる。

「あのさ、君何言ってんの?」
「あぁ?んなの常識だろ」

あぁぁぁぁぁわけわかんない。ていうか獄寺君に常識語られるとものすごい頭にくるよ。理不尽だ。不条理だ。
確かに獄寺君の話は妄想に突っ走ってるんだか何を見てるんだか自分の世界なんだかっていうこともあるけど、まぁ状況を見れば大体想像はつくはずで。なのに全く意味不明だ。
それとも本当に外にも他のダンジョンあるの!?
や、でもまさか。リボーンも言ってなかったし。ってなると……あれ、なんか凄くこの世界に馴染んだ発言なわけ……?

「てめーこそなんで俺のことを知ってるんだよ?」
「ホントに獄寺君どーしちゃったの?」

外見は弄ってない。ゲームなんだしちょっとくらい、跳ねてどーしようもない髪をちょっと大人しくしてくれるとか、少しくらい足長くしてくれるとか、夢見せてくれてもいいじゃないかってくらい現実を再現しているはずだ。だから分からないなんてことはないはず。
……ない、はず……なんだけど。

「知らない奴に気安く呼ばれる筋合いはねー……果てろ」

「えぇぇぇぇぇ!?ちょっと待ってー!!」

現実世界のものがこっちでもあるのかどうかよく分からないというか、クラス的に多分ないんだろうなーと思いながら、でもそれがいかにも獄寺君らしかったから慌てて取り押さえに掛かる。
こんな狭い洞窟でダイナマイトなんて爆発させたらどうなるか分からない。かなり現実に忠実な世界なのだ。
だけど、いつもだって止められるか止められないか1:3くらいの比率なのに、こんな獄寺君じゃ完全にその比率は止められない方に傾いて。

毎度おなじみの爆発が襲った。










































4.

煙にごほごほと咽て涙目になりながら(なんて無駄にリアルなんだ!)顔を上げた先でなんだか不穏なものを見つけてしまったような気がして、ひくりと顔を引きつらせる。

「ぎゃー獄寺君、後ろ後ろ!!」

獄寺君は気づかない。音も忠実に再現されたこのゲームでは爆音で耳がやられているのかもしれない。
というかこれって戦闘になっても音楽変わるとかないんだよな確か……ゲームなのに!なんでそんな実践さながらなんだ。多分絶対リボーンの所為だけど。
……最初の楽天的考えがちょっと考え直させられて、現実でできないことがゲームだからなんとかなるなんて考えるのは危険かなとか思ってはいるけれど。
(だっだっだっだっだっ大丈夫、大丈夫、だってこれゲームだし!)
さっきだって余裕だったし、と言い聞かせてみる。というかなんで獄寺君に会った途端にこんなにびびらなくちゃなんないんだろう。いつもの爆発の所為で現実が戻ってきちゃった気がするのか。
これが現実だったら逃げる―――というかそもそも体が動かないだろう。
でもゲームだったらモンスターに会ったら「たたかう」だ。
剣も別に重いわけじゃないし!俺でも一応当てられるし!!
(獄寺君にはいつも助けてもらってるんだしっここでゲームオーバーにでもなっちゃったら可哀相じゃん)
別にゲーム事体に興味を持っていたわけではないのかもしれないが、それでも一緒にやろうねと言って笑っていたのだ。ゲーム事態にそれほど興味が無かったのならまだ一人で全然楽しんでなんてないだろう。
だれか生き返らせてくれる人が居ればいいのだけれど、とりあえず教会は見てないし、僧侶もまだ会って居ない。
なんというかマフィアの世界+俺の友達で僧侶になるような人はいるんだろうか。なんか皆戦士か武道家を選びそうで恐い。
(まぁ獄寺君みたいな例外もあるかもしれないけど……)
それでも攻撃してなんぼの世界の住人らしいよ、うん。
だったら俺が僧侶ならよかったんじゃないかと思ったりもするけど、俺だけは自分のクラスを選べないんだから仕方ない。

「エイっ」

獄寺君の横に素直に突っ込む。
スライムと名づけられた見覚えのあるモンスターとは違ってウサギの形をした奴には当たったけれど、うさぎというには妙に凶悪な顔をしたモンスターにギロリと睨まれてすくみ上がる。

「ヒィィィ!」

ゲームだからと底上げしてくれないなら足も反射神経も鈍い俺がその状態で逃げられるわけが無い。
そのまま獄寺君を巻き込んで後ろに吹き飛ばされる。
なんだかやっぱりいつも通り俺が邪魔してるような気もするけど、とりあえず二人ともたいしてHPは減ってないみたいだからいいとして欲しい。



(しまった……)

わたわたと勇者が何かを訴えるようにばたばたと動いたのはわかったけれど、ああと顔を顰めるばかりで完全に間合いに入られるまで気づかなかった。一角獣じゃ一撃で結構まずいかもしれないとその僅かの時間で思う。

――――ザッ。

影が走る。
間抜けな声も一緒にしたけれど、それは確かに無防備だった自分から攻撃対象を外させた。まるで自分を盾にするかのような突撃。ただし、そうであるだけに勇者に向けられた攻撃で一緒に吹き飛ぶ。
だが直接攻撃を受けるよりもはるかに低い痛みで済んだ上、吹き飛ばされた距離の分だけ与えられた時間。それだけあれば十分だった。

「メラっ」

一番初歩の初歩、いつもよりも若干ランクの低い魔法が発動する。
簡単な魔法の方が組み立てが容易いのは当然で、つまりは時間の短縮のためだったが、単体ならばそれで十分だった。

「あたたたたた」

自分の下敷きになった勇者がむくりと起き上がる。
なんと言葉を掛けるべきか……勇者が痛い痛いと言っている間に矜持と義理が一瞬ぶつかる。
一撃入れただけで怯んで吹っ飛ばされる間抜けぶりは勇者を笑うだけの要素になりえたが、助けられた事は事実だった。

「大丈夫だった?」

人が悩んでいる間に立ち直ったらしい勇者に覗き込まれて、どきんと心臓が跳ねた。

「じゅっ……」

言葉が飛び出そうになってそれから慌てて口を結ぶ。
”じゅ”ってなんだ。それに続く言葉なんて対して無いだろう。
俺は知っている。その先に続く言葉を知っている。
けれどその言葉は俺の保ってきた矜持を捨てる行為であって、なんで俺はこんなに簡単に認めてしまおうとしているのかと腹が立つ。

今、勇者のクラスを持つものは『10代目』に当たるのだ。










































5.

なんていうか居心地が悪い。
うんまあ一緒に行こうとは思ってたけどね?っていうかいつもの流れでそうなるかなと思ってただけだけど。
(なんで俺、こんな睨まれてまで一緒に居るんだろ……)
モンスターを倒した後に獄寺君から言ってきたから、パーティーは組んだもののまだギシギシする視線にぶるりと身を竦ませる。
なんだか凄く既知感あるぞ。獄寺君と初めて会ったときって確かこんなんだったはずだ。今は勿論この180度態度が違う。
どうなってるのかリボーンをとっちめないと……返り討ちにあうのがオチだけど。

「あーもー山本居ないなー」

こんなときこそ山本の笑顔と山本節が欲しい。憧れの親友の笑顔は何とかなるような気になるし、元気付けられる。
(っていうか山本も変だったらどーしよー!?)
ありえないことじゃない。だって獄寺君だってこのゲームで会うまではいつも通りだったんだ。
でも山本がわけわかんないこと言い出すとしたらどういうこというんだろう。獄寺君は俺と一番最初に会ったときの獄寺君だけど、山本は俺が友達になる以前から今の山本だ。
そんなしょうもない事を考えていたら(今の獄寺君は喋らないので会話は無い)ばったりと考えていた当人と出くわした。

「山本!」
「よぉ、ツナ」

(良かった!山本は普通だ!!)
ニッコリと笑い返してひらひらと手を振ってくれる山本に手を振り替えしながら力いっぱい安堵する。
たとえその手に抜き身の無骨な剣がひっさげられていたって(見慣れてるしね)。

「山本はクラス……戦士なんだ」
「ああ、ツナは勇者か」

装備で一発で分かるだろう。そりゃ獄寺君なんかそれで急に怒り出したもんなー
ていうかこの腕につけてるのが勇者専用装備なら皆はなんで操作してるんだろう。

「あぁ?なんだこいつ」
「獄寺もいたのなー」

「やっ山本……!」

いつもだってちょっとした事で喧嘩になる(主に獄寺君が一方的に突っかかる)のに今の獄寺君は危険すぎる。
今この人危険だからあんまり突付かないでーと山本に言いたいが、まさか本人を目の前に言えるわけも無い。
……触るな危険のマークでも貼っておきたい。じゃないとこのゲーム壊れるんじゃないかな。
まぁ獄寺君のダイナマイトがあるわけじゃないし、魔法とか武器とか全部想像上というか3Dの映像だろうからそんなことは無いと思うけど。

「えっとさっ!山本もパーティー組もう!!」

秘儀・話題転換。
多少強引でもとりあえず獄寺君の殺る気を削いで、山本の注意を逸らして。後で山本には相談しとこう。見てれば分かると思うけど一応山本だし。

「あ、そだな。これなんかに登録しないとパーティー組んだことになんないんだっけか」

獄寺君はともかく山本は喰いついて来たから助かった!
とりあえず獄寺君だってパーティー登録しちゃえば攻撃できないはず……あれ?このゲームってどうなんだ??
見方に攻撃できるゲームとできないゲームがあるけど。でもってこれの元になったんじゃないかなーってゲームは……味方にも攻撃できた気が……してきた。
(あはははは……まあでも普通しない、よね?)
現実世界で起こっていることがこの仮想現実で起きないなんて事はまず無いような気はするが。
嫌な考えにぶるぶると頭を振って追い出す。

「あ、山本結構HP減ってるね」
「最初は回復薬ないかんなー」

そういえばまだ見ていない。普通は最初の持ち物に初期装備と回復アイテムくらいはあるもんなんだけど、妙なとこシビアだよなー本当。
何度も思った妙なところで味わう現実味に乾いた笑いを零す。

「まだ大丈夫そうだけど一応回復しとくね」

最初は最大HPが少ないから油断大敵なのだ。
油断しているとモンスターに出会った途端終わりだ。一応階でモンスターの強さを設定してあるみたいだけど、この妙なシビアさだ。いきなり強いのが飛び出してきても俺は驚かない。叫ぶけど。

「さんきゅーな。さすが勇者。」
「最初くらい役に立たないとさ」

勇者というのは回復魔法も攻撃魔法も使えるし、武器もかなりの種類が使えるから最初は使い勝手がいいんだけど、転職もできないからそのうち成長しなくなっていくという悲しい職業でもあるのだ。
まぁどの程度のダンジョンなのかは分からないけど、転職するほどの時間は流石にないだろう。っていうかここじゃ転職の場所があるのかさえ怪しい。

「ならさっそく役に立てよ」
「へ……?」

今まで黙っていた獄寺君が言って急に前に飛び出したもんだからぎょっとして、さらに山本が持っていた剣を横に一振りしたのに目に一歩下がる。
そこで遅れて俺はモンスターに気づいた。
気づくのが遅れたのは確かに俺が悪い。悪いというかなんというか、まぁすぐに反応してくれてありがたい。
でもさ……

「なんで獄寺君突っ込むのー!?」

君魔法使いだろっ。魔法使いって後方支援だろっ。君の普段も中距離支援のはずだろー!?
しかも初期の魔法使いの攻撃力とHPなんて相当低い。たいした攻撃もできないのに、一撃食らえば相当HP減る。
防具だってまだ初期のままだろうし、つまり紙もいいところだ。
しかもこのゲームじゃちゃんと痛みがあるんだよ?
しかも死んだら生き返らせる術だってあるか分からない状態で……あ、獄寺君また突っ込んでった。

「だから待てってばー!!」

ごす。
獄寺君を引き倒して動きを止めたところで山本が最後の一匹に止めを刺した。

「てめぇ……」

何しやがると言う獄寺君の顔は、けれど俺は頭を抱えていた所為で見なかった。
あーもう俺仲間を引き倒すしかしないで経験値入っちゃったけど回復すればそれもちゃらだよね、とばかりに獄寺君にホイミをかける。
このゲームはある程度傷も出来るし、回復すれば治るんだからまた芸が細かい。

「はーこの調子でいったらMPやばくなる気がするんだけど……」
「確かこのカエルってよくやくそう持ってなかったっけか?」
「そうかも!」

腕輪の画面を操作して、魔物が落としたものを取る動作をする。
そうするとリストに得たアイテムが追加されるんだけど……

「なんでFF……?」

ここまでドラクエにしといてここにきてFFかよっ!
追加された項目にポーションという文字、さらにHPを回復という文字に完全にこの世界の回復アイテムがやくそうでなくポーションであることを理解させられた。

なんだか凄く異様だ。