ローテローゼ〜prolorgu〜


「いーか?滅茶するんじゃないぞ。」
「くれぐれも騒動は起こすなよ。」

「……あんたらあたしらを何だと思ってるわけ……?」

「何って……」
「いいから行って来いっ!!」

軽く手を振って遠ざかっていく二人を見送って、残るのは少女二人だ。
―――――――ただし普通の、ではないが。
一人はゆったりとした白いローブとマント。白魔術を使い、正義の文字を背負って歩くだけあって殆どが白で統一されている。物々しい装備はないから単なる旅人と言えなくもない。
今一人は黒いマントにショルダーガード。腰にはショート−ソードまで挿しており、要所要所にはめ込まれた宝石は唯の装飾でなく護符。こちらはどこから見ても魔道士姿である。
どの道街の人間と言うには難がある二人の少女が見送るのも、方や胸甲冑に剣を持った男。方やフードまで目深に被った怪しげな白ずくめである。当然街の人間であるわけがなく、彼女らの旅の連れだった。分かれる予定も特にない。
だからそれが旅の別れというわけではない。

「大丈夫でしょうか?」
「まっゼルが付いてるんだし大丈夫でしょ。それより……」

一般的に見れば小柄だが若干背の高い魔道士姿の少女を振り仰ぎ、彼らの不在か、それとも彼らが引き起こすだろう騒動にか懸念を口にする連れの少女にウィンクを一つ。

「ちゃっちゃとこっちも片付けちゃいましょ。」
「そうですね。リナさん。」

元気良く拳を振り上げて一つ頷く。
向かう先はとりあえず食堂、酒場といった人の出入りの激しい場所だろう。街の情報とここ近辺の外の様子が聞ける聞き込みに適したところを回る算段だ。その後は宿に戻って夕食。
ちゃっちゃと片付けるといっても本格的な行動は夜。
保護者公認のことでもあるし日頃は控える夜遊びも派手にやれるというものだ。
上がる火の手に阿鼻叫喚。それが嬉しいわけではないけれど、なにかと繊細な乙女の鬱憤晴らしにはなる。
さらにお宝が手に入れば文句なし。

ただ、それは単なる趣味ではないということだけが違う。







この町で四人は二つの依頼を受けたのだ。もちろんそれは別々に、しかし同時に受けたことによる。
断るには解約金がいる。
そんなものを払うのは冗談じゃない、とリナは言った。ゼルガディスも得策ではないと判断した。もっともこちらの方は旅費は貯まるし趣味と実益を兼ねた少女たちの盗賊いぢめも少しは減るだろう。そういった思惑がないでもない。
幸いどちらの依頼も彼らにとって特別難しいわけではない。それにせっかく四人もいるのだ。分かれて仕事を行えば十分だ。
いつもはリナとガウリイ、ゼルガディスとアメリアと分かれるところを男女二つに分けたのは一つの依頼内容に問題があったからだった。

一つはとある男の身辺警護である。こちらは男二人が担当する。
理由は簡単。少々素行
―――――というか手癖に問題がある男なのだ。本当に狙われているのかも危うい―――もっとも道を歩いているだけで後ろから刺される心当たりが腐るほどあるようだが―――内容的には穏やかなものだ。屋敷に部屋をあてがわれての仕事だから食事つき。つまりはその間の滞在費は要らないで高級な生活環境が得られる。その分ストレスは溜まるだろうが、この男たちにそんなにも細い神経が通っているわけでもない。それは少女二人にも言えるかもしれないが……
とにもかくにも男二人が結託して少女二人を遠ざけたのを彼女たちは知らない。

もう一つもおよそ少女たちだけを放り出すような仕事ではないのだが……
彼女たちは強い。男から身を守るよりも、敵を容赦なくぶっ飛ばす方が格段に性に合っているというある意味で兵たちだ。
そう。二人の心配が少ないで済む慣れたもの。
いわゆる盗賊退治というやつだ。

日頃の行いと変わらない、という突っ込みは命が惜しければ口にしないほうが懸命だ。





約束は三日後。護衛の任務がそれまでだからである。
もっとも、と笑うのは魔道士の少女。

「どうせ今夜一晩で十分でしょうけどね。」
(そうしたらお宝の仕分けに費やせばいいし。ここで売り払ってしまったほうが何かと動きやすいしねぇ。)

「そうです。そして正義を広めるんです!」

似て異なる輝きを瞳に宿し、ただ浮かべる笑みだけは同じように楽しげに……