エンジェリックウォール

第一幕 -海より出でる-
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第二幕 -花開くまで-
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第三幕 -クラブサンドランチ-
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第四幕 -フライングハイ-
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頂き物
第一幕刹那※半裸注意





















































01.

伸ばした腕をどうにもできないまま、呆然と見つめる。
細い、と思うことはあった。
だがそれは子供だからであり、生い立ちからの発育不良だと思っていた。
そう、思っていた。

ぽかんと開けたままの口が大層まぬけだろう。
分かってはいた。そうどこかで冷静に自分を見る目は常に持っていた。
――――というよりは単に現実逃避めいた思考だろう。

「おい」

いつまでたっても動かないロックオンに刹那が顔を訝しげに顰める。
濡れた服を乾かすために服を脱げと言ったのはロックオンであり、それを干しているのもまたロックオンである。当然のような役回りは望んでというか性格上そうなってしまう。
刹那は頓着する性格ではなくきっとそのまま放置するであろうし、ロックオンはそんな刹那の面倒をみずにはいられない。例え本人に鬱陶しがられようとも手を出さずにはいられない。
実際鬱陶しがられている自覚はある。
が、そうでもしなければ刹那は自分の体を省みたりはしないだろう。どんなに嫌な顔をされても止めるつもりは毛頭なかった。
その努力の甲斐があったのか。
こうやって必要であれば言われた通りにやってくれるようになった。
そう言われた通りに……

「おい、ロックオン」

名前を呼ばれ、やっと固まっていた体が動く。
ただし脳まではどうもまともな機能が働かなかったようで、飛び出した言葉はやはり顔同様に間抜けだったかもしれない。

「”おい”じゃねーだろー!」

もう一度現状を認識する。
それを目にするまでの認識通りであったのなら別段現実逃避に走りたくなるものではない現実、服を脱いで肌を晒した刹那の体が今目の前にあった。
細い肩だった。折れてしまいそうな細い四肢だった。
まだ幼い。だが、間違いなくそこにあるのは女性特有の膨らみであって、少年の持ちえる平らな胸ではない。
驚愕の事実。少年だとばかり思っていた子供が実は少女でしたなんて驚かないわけがない。
ただ、今の思考は平然とそんな肢体が目の前にあることに重きを置いた。

「俺の発言をあんたにとやかく言われる筋合いはない」

むっとしてそっぽは向くが、体はそのままこっちを向いたままだ。
なんだってそんなに平然としているんだ。
これは俺の認識が可笑しいのだろうかとロックオンは少し考えてすぐに否と答えを出した。普通の反応としては恥らって隠すとか何かしかるべき行動があるはずだ。
だからといってこちらから失礼と後ろを向くとか毛布を掛けるとかそんな気の利いた行動は取れなかった。普段ならありえないことだ。そういったことに気が利くのがロックオン・ストラトスであるはずだ。
そのくらい動揺していた。
そもそも発言自体が動揺している。
何故、刹那の体が女性にしかないものを持っているのか。
それを本来なら問うべきである。いや考えるまでもなく刹那の性別が男ではなく女であるからということではあるのだが。
ロックオンは刹那を男だと認識していたし、アレルヤもティエリアも同じだろう。
何故、偽っていたのか。
いや故意に性別を偽っていたのだとすれば簡単に脱ぐとは思えない。多少不自然だろうが気持ち悪かろうが服を着たまま火に寄るだろう。それでも乾かないわけではない。
ならばこの事態はなんだというのか。目にしているものはとにかく変わりはしない。

「いいからさっさと服を掛けろ」

痺れを切らしたように刹那が手にした服を主張する。
そうだ、自分は刹那の服を干すために振り返ったのだ。
慌てて受け取って後ろを向く。突き出た岩と岩に持ってきたロープを引っ掛けて即席の物干しが出来ていた。自分も上を脱いでそこに引っ掛ける。
濡れた服は潮の匂いがする。
顔に張り付いた髪も同様だった。少し気持ちが悪いが此処にはシャワーはない。
ああ刹那の髪を拭いてやらなければ。きっとそのまま放置する気だろう。シャワーの後だってそのままなのだ。折角服を脱いでも風邪をひいてしまうし髪が痛んでしまう。
それから……
やるべき事を頭の中に並べ、なんとか平静を取り戻す。
阿呆な頭のままでは大いに問題だった。たとえ問題を先送りにしたとしても今は平静でいる必要がある。

そもそも彼と刹那が何故、二人でこんな洞窟で服を脱いで乾かせているのか。
つまりはミッションである。




















































02.

「……ガンダムを海中に隠すとはねぇ」

よくやる。
ミッションプラン通りとはいえガンダムを海中に置き去りにすることにも迷い無く、刹那は海にその身を躍らせる。
どうやら刹那のほうが抵抗が無いらしい。というよりは慣れているのか。
そのミッションを受け取った時、エクシアに夢中の刹那はもっと嫌がるかと思ったが予想に反して静かなもので、思わずいいのかなんて聞いてしまったらいつものことだ、問題ないと一言言った。
確かに宇宙空間の使用にも対応して設計されたガンダムが、水中で水漏れするはずがない。
海は地球上で一番宇宙に似ているという。
もちろんイコールで水中戦闘が可能、という訳ではない。戦闘と置いておくだけとは違う。
真空空間である宇宙で生きるためには一部の隙間も許されない。空気が漏れてしまう
――――もっともそれがあっても大丈夫なようにパイロットスーツを着用しているわけだが。
つまり水も入る余地は無い。浸水の心配はないだろう。
ただ乗り込むまでと外にでる時が厄介だが。

海の終わりが見えてくる。
先行していた刹那から先に上がり、続いて手を付きざばりと海から上がる。
張り付いた髪を顔から引きはがして後ろに撫で付け、顔の水滴を手で払う。潮水は目に入ると痛いのだ。
刹那の方は慣れている風なわりに失敗したのか顔を顰めて目を擦っていた。
それを見てまさかいつもそんなことをやっているんじゃないかという心配が頭を擡げる……あながち杞憂とは言えない。自分のことになんて頓着しないのだ。
仕方がない。

「ほら、刹那上向け」

殴られるのを覚悟で頭一つ低い刹那へと身をかがめて瞳に唇を寄せる。
べろりと舌を使って舐め取っていくと、痛いのか暴れようとする体を押さえつける。

「っ……なにするっ」

拘束を弱めれば案の定、飛んできた拳をよけることも出来たが甘んじて受ける。
もっともこの体制では大した威力はない。

「痛てーな。仕方ないだろうが。擦ったって痛みは取れないんだぞ?」

洗わなければ痛いままだ。水は飲み水として持ってきたものがあるにはあるが、海水が入らないようにと厳重に密封されたそれを引っ張り出すにはもう少し時間が掛かる。あるものを使うのが一番手っ取り早い。
ぽんぽんと怒る刹那の頭を撫でてそれもまた叩き落とされながらぐるりと周りを見渡す。

「さってと火起こすか。さすがに風邪ひいちまうぜ」

北半球の季節は冬間近だ。まだ本格的な寒さにはなっていないがすでに風は冷たくなってきている。
自分はまだいいとロックオンは思う。だが、見るからに脂肪のなさそうな細く体力もなさそうな刹那には辛いだろう。
火種も燃料も持ってきているから待機するのに問題はない。
さすがに待機施設はないが、風がしのげる程度の場所は詳細なポイントまで送ってくれている。

「洞窟って……今時中々ないよな」

示されたポイントにあったものに苦笑してしまう。
天然の洞窟で濡れ鼠が二人、待機だなんてまるで遭難したかのようだ。

「火はやる」
「それじゃ俺は干す場所でもつくりますかね」

やはり寒かったのか、さっさと荷物から燃料と火種を出し始めた刹那に背を向けて奥の岩場に紐を張って衣服を干す場所を確保する。
パイロットスーツを着たまま泳いだのであればそこまでする必要は無かったが、万が一人に見咎められた場合パイロットスーツでは怪しすぎる。
どちらにしろ濡れ鼠では怪しいことこの上ないが、警戒のされ方が違う。パイロットスーツを着ているということはモビルスーツがあるということであり、そんなものは軍人か傭兵が乗るものだ。

「刹那、火起こせたら服脱いどけ。干してやるから」
「分かった」

いい返事。
任務の時は一応こいつも素直なのだ。
(これで暴走癖さえなきゃ優秀なんだろうけどなぁ)
ついそんなことを考える。
今回は、大丈夫だろうか。信用していないわけではないが、心配で仕方がない。刹那を任されるのはハロにまで貧乏くじと言われたが、嫌いではない。

「ロックオン」

呼ばれて脱ぎ終わったのか服が差し出される。
それを受け取ろうと振り返って、そしてロックオンは固まった。




















































03.

話は冒頭へと戻る。
すーはーと息を大きく吸って吐き、心をなんとか落ち着かなくても落ち着けて、もう一度振り返る。
きょとんとした刹那はやはりそのままこっちを向いて指示をまっており、首からしたも当然変わらない。
それを信じられなくて凝視してしまう。
失礼であるとか、痴漢行為であるとか、考えがまわらなかった。変態と罵られても仕方がないかもしれない。
だが、決して疚しい気持ちはない。断じて。
とにかく信じられなかった。

「ええとだな、刹那」

頭が上手く働かない。何を言っていいのか分からない。
しかし何かを言わなくてはならない。この事態は明らかに可笑しいだろう。なら何が可笑しいのか。
実体と行動。噛み合わない認識。
その中で聞けるべきことは一つだけだ。そしてそもそもの原因。
ごくり唾を飲み込む。

「おまえもしかしなくとも女の子なのか?」

目の前にして聞くことではない。
分かっていたが分かっていなかった。つまり冷静ではないということだ。
だが相手はあくまでも俺の常識外の存在だった。

「それがなんだ?」

だからなんだじゃない。
そうであるなら、その自覚があるなら、恥らうとか隠すとか悲鳴を上げるとか。いやそうだが、そうじゃなくて、さも平然と当たり前のように言われてもこっちは付いていけない。こちらの認識としては刹那は男であり、ここは何で隠していたのだとか偽っていたのだとかそういう話が続くはずで。
いやいやいや、そもそも隠していたわけでなかったとすれば。
ヒヤリと、冷や汗が背を伝う。
それはかなり失礼な話ではないだろうか。ティエリアが女と間違えられるくらい、それは怒る要因ではないだろうか。

「それよりさっさと毛布を出せ」

人の気を知らない刹那は寒いのか、ずいと出した手がロックオンの持ってきたバックパックを示す。
防水と圧縮のため密閉された毛布が各一枚ずつそこには入っていた。

「あ、あぁ。そうだな……」
「クシュン」

クシャミばかりは可愛らしいがやはり平然としていて違和感がぬぐえない。
袋を破り、元の大きさを取り戻した毛布を肩に掛けて包んでやりながら、いつものように払われた手に、今回ばかりはしまったと思った。
短く切られた髪、胸元も腰も細いばかりで未成熟な肢体。
確かフェルトよりも二つ年上だったはずだが、そんな少女より言っては悪いが発育が悪い。
だがそれだけでなく少年と疑わなかったのは少女と言うにはきつすぎるその瞳の所為か。こんなにも苛烈な目をする少女をロックオンは知らない。強い信念を必要とするソレスタルビーイングにおいてすら。
憂いと決然とした色を帯びたスメラギとは違う。
ある意味で苛烈はあるが、華やいだ女性的な強さを持つ留美とは違う。
明るさと自信を持ったクリスとは違う。
真っ直ぐな瞳をしたフェルトとは違う。
誰とも、違う。

それでも、指し示す事実はたった一つだけのもので。

刹那の頑なに触合いを嫌う理由。
それはもしかしたらこの服の下の事実にあったのかもしれないと思った。




















































04.

「クシュン」

聞こえたくしゃみは何度目だろうか。
寒いのだろうとは分かっていた。一応火も焚いているし毛布にも包まっているが、一度冷えた体はそう簡単に温まるものでもないだろう。
俺が感じる寒さ以上に、あの華奢な体は外気の寒さを感じている。
(仕方ないよなぁ……)
これは下心からじゃなく、親心というか親切心というか、つまりはそういった心配する心から出るものだ。誰かに後ろ指を指されるようなことじゃない。後ろめたい気分になるほうがつまり危険ということだ。

「刹那」
「……なんだ?」

炎を見ていた刹那が顔を上げてこちらを見る。
毛布に包まれたその肢体は見えはしないが、最初に見たあの印象が強すぎて思わずどきりとしてしまう。
(……だからそれがまずいんだって俺!)
あんな体、魅力的でもなんでもないだろう。思い返してしまった刹那の肢体を思い描いて首を振る。
ばっちりと見てしまった体は記憶にかなり正確に残っている。
もっと体に凹凸のある女なんてどこにだっているし、少なくとも俺の好みはわりとそういった年上だ。そのはずだ。
(よしっ大丈夫、大丈夫だ)
自分に言い聞かせるように肯いて刹那を再び直視する。

「こっちこい」
「なんでそんな必要が……」

こっちという場所。俺の布団を示してみせれば案の定不満そうな顔をする刹那の腕を強引に取る。

「いいからこい」

強引に腕を引いて、自分の毛布の中に引っ張り込む。
毛布越しに、和やらかな感触と体温を感じて再び跳ね上がる心臓に罵倒を浴びせつつぎゅっと抱き寄せる。これで少しは温かいだろう。本当は布団越しよりも肌を直接触れ合わせた方が温かいのかもしれないが、それは刹那が嫌がるだろうし俺がどうしようもない気がする。
欲情するような体ではない。
貧弱で貧相。
全身を思い浮かべたところで魅力的なところと言えばその強い瞳くらいだろう。肌は染みもなく滑らかだが傷がある。

なのに。

潮の匂いがした。
自分と同じ匂いであるはずなのに、少女の持つ体臭と合わさるとそれが麻薬であるかのように。
――――クラクラ、した。

(うそ、だろ……)
こんなもの。こんなこと。ありえない。なんで。
刹那だぞこいつは。ずっと男だと思ってきたんだぞ。
そして目を離せない子供だと、まるで兄のような気分で接してきたはずなのに。

「ロックオン?」

不信そうに下から見上げてくる刹那の声で我に返る。
どれだけそんな拉致も無い思考に捕われてるんだ俺は。
誤魔化すように刹那の頭を撫でて、意識的に笑ってみせる。

「こうしてりゃ少しはましだろ。あんまクシャミばっかして、明日風邪引いてミッションできませんでしたなんてなったら笑いものだぞ」
「そんなことはない」

むっとする刹那の頭をもう少しかき回す。
うんまぁその場合は俺に非難の声が上がることが予想される。なんでだろうな本当。
もしかして知っているのかもしれない。
知らないのは俺だけじゃないだろうかという気すらしてくる。まさかそんなことはないだろうが。
もし、そうだとしたらそうさせる理由はなんだ。
一つ思い当るのは俺の接し方が刹那を特別に見ているように取られている場合だが、俺はロリコンではない。ショタコンなどでは絶対にない。
にも関わらず、彼が彼である。否、彼女が彼女である故にこの欲はどうしても湧いてくる。
惹かれるのは刹那・F・セイエイというコードネームを持った存在であると、痛感する。

「いやいやいや。だからそれはやばいんだって」
「何を言っている?」

独り言に対する不信そうな視線に空笑いを返しながら、なんとか誤魔化しきる。
でなければこれからの任務も、俺への信頼もずたぼろだろう。
誰だこんな任務考えた人間は!
いや勿論一人しかいないわけだが。
支離滅裂に苦情を訴えながら、それでも刹那を抱えたままごろりと後ろにひっくり返る。

どうやら今夜は眠れそうに無い。




















































05.

一晩、眠れない頭で考えた。時折胸の上で動く刹那に非常に体に悪い思いをしながら。
キス一つせず耐えた俺に拍手を送りたい。かなり正直な話。いやいやだから俺は断じてロリコンではないけれどっ!
とにかくそんな中で考えた結果、正しく文句を言うべき相手を思いついた。
なんせ刹那に言うのは筋違いだ。(いやある意味では非常に正当でそれ以外に文句を言うべきところなどないのだが)
彼女が知らないわけが無いだろう。トレミーを預かる、確たる名目はなくとも事実上指揮官である女性。
たいした損害も無いデュナメスを着艦させると、ハロもそのままに一目散にその人が居るであろう場所を目指した。

「スメラギさんっ」
「隠してたわけじゃないのよ」

一言目がそれだった。
お帰りでもお疲れ様でもなく、報告書の提出を促すわけでもなく、どうしたのでもなく。
つまり
――――確信犯だ。
ニッコリと艶やかな笑みを向けられて、ガクリと肩を落とす。

「あなたが気づかなかっただけのことだわ」

正論ではある。刹那には完全に隠す意図なんて無かった。
だけれども一体この組織の何人がその事実を知っているというのか。組織の何人と言ってしまえばマイスターの情報がSランクということもあり知っている人間は限られるかもしれないが、現状共にミッションを遂行しているこのメンバー、ガンダムマイスターとトレミーの運行メンバーだけで一体何人が知っているというのだ。
まあこのあたりは俺が口を出すべきところではないのだろう。
隠しているわけではないというのだから、問題なんてないはずだきっと。

「それはいいです。いえ良くはないんですけどっ」

最大の問題は、刹那のあの自覚のなさだ。
女の子だというのなら、同年代(よりはかなり上ではあるが)の男の前でああも無防備に何の感慨もなく肌を晒すというのはどうなのか。

「なんだってあんな無防備というか無頓着なんですか!?」
「へ〜えロックオン。あなた何か刹那にそういう感想を持つことでもしたの?」
「してませんよっ!」

濡れ衣とは言い切れないまでも、とんでもないと首を振る。
俺は耐えた。ばっちりあの裸体が脳裏に残っていたとしても俺は耐えた。
夜のおかずにすることも今のところ予定に無い。

「俺はロリコンの称号を頂きたくはないですからね」
「あら、まだそんなこと言えるのね」

意外だわとでも言いたそうなスメラギさんの発言にこの人は俺をなんだと思っているんだろうかと結構な疑問が過ぎるが、俺の心からの叫びに回答をくれたので大人しく口を噤む。

「刹那には男女のくくりがないのよ。まだ、幼いの」

それは分かる。刹那の性別を知る以前からそれは感じていたことだ。
その性別に対する認識が変わるだけでこうも問題が出てくるとは……

「あなたと一緒なら少し自覚も出るかと思ったんだけど……」

無理だったようねとしみじみとぼやくスメラギさんにこの人戦術予報士のくせになんて適当なんだと思う。
いや藁にも縋るというのかもしれないが。

「そんな期待しないでくださいよ……」

藁にされたほうはたまったものではない。
まあ人選としては適切だと心底思うが。
正直な話ティエリアであれば知っている可能性があった。なにしろ隠していないのであれば刹那の基本情報として性別は女とヴェーダに登録しているだろう。ティエリアはその情報を閲覧しているはずだ。
アレルヤであれば……反応は俺と似たりよったりか。最悪意識しすぎて妙な気を回しすぎるかもしれない。
何故この俺だったのか。
女性的な感性を育てるにはティエリアは期待できないし、かといってアレルヤじゃミッションに支障をきたす恐れがある。
まともな感性を持ち合わせていて、なおかつ支障をきたさない俺が適切ってか。
いくら適切だっていっても……
まあ刹那の裸を誰かに見られたらと思うよりはいいか。と思考が結論を下したところではたと気づく。

「って今あいつシャワー浴びてるよな」
「なあにロックオン。ロリコンじゃないって行った側からのぞきに行こうっていうの?」
「共同のシャワールーム使ってないか!?」

私室にもあるにはあるが、基本的には共同のシャワールームを使う。特に出撃後は部屋に帰るよりもロッカールームに付属するようにある共同シャワールームの方が都合が良い。特に潮でべたついた体をそのままにして部屋に戻るとは到底思えない。
(まあ今回ミッションに出てるのは俺と刹那だけだし……いや確かアレルヤが地上から戻ってくるんじゃなかったか?)
それは鉢合わせの可能性があるということだ。あの羞恥心やら恥じらいやらをどこかに置いてきた子供のそれでも確かに女の子である刹那は、まったく頓着せずに堂々と肌を晒して出入りすることだろう。
(なんで今まで問題になんなかったんだ!?)
ものすごく謎だ。
とりあえず思い当って顔を青くした俺は、スメラギさんへの挨拶もそこそこにシャワールームへとダッシュした。